寒冷の厄災 2
寒冷の厄災の口から出た言葉にサルワは反応しない。
まるで否定でもあり、肯定でもありそうな……微笑みを見せるだけであった。
「答えずか……。それでも、お前の考えが読めるわ。どうせ、最初は良いように利用したのちに俺を討伐し、寒冷の力だけを取り込む。そうだろう?」
サルワは無言を貫き通す。
それは寒冷の厄災の質問が的を得ているものだからなのか、それとも──
「こうなるとは思ってなかったけど、しょがないか」
軽いため息をつきながら、サルワは魔力を体内から放出。そのまま身に纏い、戦闘態勢に入る。
「やはりな。同胞のように、俺を取り込むつもりか。良いだろう、ここでお前を殺す!!」
「今の私に太刀打ち出来ると思うの?」
そんなの、言われずとも理解しているとも。
可能性はゼロじゃあ無い。しかし、それはとても小さい可能性だ。
刃の厄災、死の厄災に、憤怒の厄災、そして支配の厄災……。ほかにも、いくつかの厄災の力を取り込んでいるようだ。そんなサルワに、一つの権能しか持っていない寒冷の厄災が勝てるわけがない。
だが、それでも──
「勝てるかどうか、の話ではない」
その巨大な獣の肉体、その足元から徐々に刃のように鋭い氷が広がっていく。
「お前は支配される恐怖から生まれた存在。であれば、我が父からの束縛から解き放たれたお前が世界を支配しようとするのはまだ良い。罪ではあるが、仕方の無いことだと認めよう。しかし、同胞を喰らうとは何事か!!我らは同じ父を持ち、共に人世界へと恐怖を与えなければならない我らを取り込むとは言語道断である!!これは決して許されない、許してはいけない!!!」
さらに竜巻のような風が吹き荒れ、雪の中に雹が混じる。魔力で身を守っているおかげでサルワは無事だが、これほどの風に流れてくる雹はかなりの威力となっている。一般人であればきっと風穴が空いていることだろう。
それほどの風、それほどの悪天候というのに、さらに風は強くなっていく。
「これが寒冷の権能……!素晴らしいな、この力があれば……くッ、ふふ。ははははっ、良いぞ!欲しい。その力は私のモノだ!」
サルワも自身を中心とした半径十メートル以内に支配の権能を広げて行く。すると彼女の権能によって風は止まり、雹も動きを止める。まるで時間が止まったように。
しかし、それだけでは終わらない。
さらにサルワは刃の権能を用いて、両手に二本の短剣を創造する。
「行くぞ!お前をここで、必ず殺してやる!!」
寒冷の厄災はその巨大なな口を開き、鋭い歯で噛み切ろうとサルワへと突撃していく。
「やってみせろよ、兄弟!!」
それを真正面から受け止めに行くサルワであった。




