戦争準備 13
そのような会話をしている最中、突如として周囲の冒険者たちがざわつき始める。
その雰囲気から三人はどうしたのか、察する。
「おっと……こうも話している間にアナトが帰って来たみたいだな」
ベスは研ぎ石をしまい、研磨を終えた短剣を鞘に入れる。
アナーヒターも、ミトラも霊霄殿から出て来たアナトの方を見る。
アナトは周囲を見渡し、誰がいるのかを確認すると口を開く。
「もっと落ち着いた場所で発表しようと思っていたけど、主要メンバーはある程度、揃っているようだし、もうこの場で結果発表するとしようか」
そうして、アナトは深く呼吸し、全員に聞こえるように大声を出す準備をしながら、開戦宣告状を取り出す。そこには、冒険者ギルド連合東方支部長であるテンギョクの印字があった。それが何を意味するのか、皆が理解する。
「許可は下りた!!今から世界中の冒険者かき集めて、セレシアに向けて戦争準備だッ!!!」
その言葉に冒険者全員が覚悟を決める。
これまで冒険者として請け負ってきた任務とは違う。
魔物を狩る、商人や貴族の護衛、犯罪者の取り締まり……そんなモノとは比べ物にならないほどの労働。そして、これまで冒険者は治安維持を目的とした組織だったが、今回は違う。人と人の戦い、必ず血が流れるであろう殺し合い。
もちろん、死ぬ者だって現れるだろう。規模によっては死体すら残らぬ者もいるだろうし、消息不明で生きているかどうかも分からない者も必ず出てくるはずだ。ゆえに、最後になるかもしれない家族や友人との時間を過ごしたいと考える人がいても当然だ。
死なないためにあらゆる武具の準備に……そして死んだ時のために自分の最後の時間を楽しむために……多くの冒険者が戦争に備えて解散していく。
「マジかよ、本当に許可が下りちまったんだな」
出てきたアナトにベスがそのような言葉をかける。
「互いの利害が一致すれば下りる。私だってただ戦うだけしか能がないようなバカじゃないさ。色々と根回しに、説得材料集めるのに苦労したよ」
「でしょうね、あの天玉仙帝を説得してしまうレベルなんだから」
アナーヒターも可能性があるとはいえ、本当に戦争が起こることはないでしょうと心の何処かで思っていたからこそ、彼女の表情に少しばかりの焦りや不安のモノがあった。
「まっ、確かにここ最近、お前めっちゃ忙しそうにしていたもんな」
ずっとギルド連合本部の仮拠点で書類作業をやらされていたベスは、アナトの努力が計り知れないものであるという事を理解していた。
東に西にと太陽よりも速くあちこちの国々に周り、各国のギルド長に支部長を説得していた。時折、仮拠点に帰って来たかと思えば、すぐに書類まとめて出て行く。その姿を見ていたからこそ、ベスはめんどくせぇ、と思う反面アナトの努力が実って良かったと感じていた。
「さて、私たちも色々と準備しなきゃいけないし、行くか」
そのアナトの言葉に皆、戦争に備えて自分のやるべき事をしに行くのであった。




