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戦争準備 12

 数時間後──


 多くの冒険者が霊霄殿(れいびょうでん)でアナトが出てくるのを待機していた。


 失敗すれば、このまま解散となるだけ。しかし、もしもアナトが上手く話を持って行くことが出来れば今日からギルド連合本部に在籍している多くの冒険者全員がメイガス・ユニオンとの戦争に向けて準備をしなければならないからだ。


 そこには術聖アナーヒターと剣聖ミトラの二人もいた。二人もまた戦争ではメイン戦力になるのが確定しているからこそ、彼女たちもアナトの持ち帰ってくるテンギョクからの返答をまだか、まだかと待っていた。


 「まだ出てこないな。あぁ、変に緊張するなぁ……」


 そのように呟くミトラであった。


 「そうか、ミトラはメイガス・ユニオンに正面から戦うのは初めてか」


 彼女の言葉に反応するのはアナーヒターであった。


 「初めて……ってこれまでメイガス・ユニオンと冒険者ギルド連合がぶつかったこと何度かあったの!?」


 「そりゃあ、調和神アフラの蔵から神代の遺物(アーティファクト)を盗もうとした奴らだぞ?そりゃあもちろん、何度かぶつかったことがあるよ」


 お互い、仮想敵として見てきたのだ。ギルド冒険者とユニオン魔術師、これまで多くの小競り合いに戦闘が行われて来た。それが大規模発展して国をも巻き込む争いにまでなることも多々あった。


 しかし、その戦いを認めてしまうと冒険者ギルド連合は規定違反となり、同盟国が離れて行く。メイガス・ユニオンも魔術師を他国への潜入、政治介入と言った裏事情がバレてしまい、設立国であるセレシアが危険な立場へとなる。それらの利害が一致しているゆえに、お互い情報操作を行い、公式にそれらの戦闘を認める事はなかった。


 だが、今回は違う。


 「それでも、きっとこれまでに無い、激しい戦いになるだろうね。どれほどの被害になるかも予想が出来ないよ」


 とさらにミトラを不安にさせ、緊張させるような事をいうアナーヒター。


 そこに一人の男が話に介入してくる。


 「ったく、どうしてこんな面倒な話になっちまったんだろうなァ」


 そのようにぼやくのは、ミトラに剣術、剣技を教えているベスであった。彼は来るかもしれない戦いに備えて自分の短剣を携帯用研ぎ石で磨いていた。


 武器は包丁とは違う。本来であれば、専門知識を持つ鍛治師にやらせなければならないモノだ。しかしあらゆる任務を受け、あらゆる場所に行く冒険者にとって自分の武器を常に鍛治師には見せられない。ゆえに、このように携帯用研ぎ石を持っている者は少なく無い。


 「そう言えば、お前は前のメイガス・ユニオンとの戦いで調和神アフラに目をつけられたんだったな」


 「あぁ、そうだよ。あの時、メイガス・ユニオンの依頼を受けてアナトと殺し合いをしなければ、俺はまだ傭兵として自由に生きていたっていうのにな!」


 アナトとの殺し合い?


 確かに、ベスは剣士としては異常なほどの実力を持っている。それは剣聖レベルで。しかし、最強の冒険者であるアナトとも渡り合えるほどだったとは。


 先生として剣術を教えてもらっているが、彼は自分のことを語りたがらない。改めてどのような過去を持っているのか、ミトラは強く疑問を持つのであった。

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