戦争準備 9
これまでアムシャは人間を見下して来た存在だった。調和神アフラとは違い、人間に価値を見出せず、神々の時代は永遠に続くと信じて疑ってこなかった。
それは封印が解かれてからも同じだと思っていたが──
やはり腐っても神なのだろう。アムシャも、テンギョクも……結局は調和神アフラと同じ意見へと至ったのだ。とは言えど、同じ意見だからと言って持つ野望が同じとは限らない。
「では、アムシャ。お前はアフラの計画を引き継ぐつもりか?」
その質問に、「はッ!」と笑って答える。
「なわけねェ!確かにアフラの人間の時代ってのは必ず来るかもしれん。それほどまでに、人間の可能性を感じた。だが、別に人間世界を築き上げる事には興味沸かねェんだよ。勝手にやってろって感じ」
やはり、彼もまたテンギョクと一緒だった。
「それよりも、神の如き力を手に入れた人間の方が面白そうだろ!アナト・サンキライに、チャミュエル・ローリィ!キサマの所にいる四方星もまた面白そうだ。クククッ!あぁ、そうだな。神々の時代よりも楽しくなって来たよなァ!」
そう言って高らかに笑う。
人間の可能性を認めるが、だからと言って調和神アフラとは違う世界を見ているようだ。
調和神アフラは人間の可能性を見て、時代を明け渡すべきだとした。
アムシャは人間の可能性を見て、それを自分に楽しむべきだとしている。
ではテンギョクは──
「……お前が人間をどうしようが、お前の勝手だ。だが、余の計画を邪魔するような事があれば、その時は真正面から問答無用で捻り潰してくれるわ」
「分かってるよ、キサマとは戦いたくない。神に等しい力を持つし、力の本質も神の権能そのものだろう。俺の権能の範囲内であるのは間違いない。だが、そのような『在り方』であれば権能効果は半減するだろうし、それ以上にお前は別の力も持っている。それに対抗する術を俺は持たん」
「だろうな。余も計画の邪魔さえしなければお前のことなど、どうでも良い。どうせ今は暇つぶしにトーゼツを追跡しているのだろう?」
「あぁ、そうだよ。アレはアフラの計画、その中心人物だからな」
トーゼツ自身は気づいていないが、彼は神々を超え、人を代表する力を持つ。だからこそ、調和神アフラは自身が立てた計画に組み込み、テンギョクもまた彼を自分の部下として求めている。
そして数千年という長い年月、封印されていたアムシャもまた、一目見てトーゼツが只者ではないということは気づいていた。しかし──
「だけど、あれは失敗作だろ」
そのように吐き捨てる。
アムシャのその眼は明らかに興味を失った、どうでも良いような眼をしていた。
「確かに、あの力を成長させれば面白い事になるかもしれんが……あのような心持ちの人間が神を超えるとは到底、思えないな。キサマも、アムシャも……見る目が無いとしか言いようがない」
それだけ言って、アムシャは透明になり、空気と一体化するようにして消え去る。
「……ふん、見る目が無いのはどっちだろうな」
テンギョクもまたアムシャのセリフにそのような呟きを残し、再び開戦宣言に関する書類に眼を通し始める。




