戦争準備 8
アナトが去ってしばらくして──
「ふむ……面白い」
ぺらぺらと玉座の間で開戦布告に関する書類全てに目を通していたテンギョク。
許可を下すのは自分一人でも出来る事だ。だが、さすがに国の今後に左右する話だ。後ほど信頼出来る部下にも読ませて、話し合ったのちにどうするか決めようと思っているのだが──
(メイガス・ユニオンが解体となれば、セレシアは全体的に大幅に弱体化すると考えても良いだろう。無論、セレシアは領土的にも、人口的にも……経済的にも大国だ。弱体化するとしても侮れないだろう。それでも……)
これは仙国にとってのチャンスかもしれない。
「くくくっ、良いぞ。アナト・サンキライ!!この話を聞いた時は信じられなかったうえ、今なお抵抗感はあるが……はははっ、それよりも余の計画が大幅に進められるかもしれん!まったく、姉弟揃って余を楽しませてくれるわ」
玉座で一人、高らかに嗤っているその時であった。
「ほぉ、キサマの計画とやらも面白そうだなァ」
テンギョクの独り言に反応するのは、一人の男の声。聞こえて来た方向、そこには最初何もいなかった。しかし、テンギョクの目の前に徐々にボヤとして現れ、最終的には一人の男がそこに立っていた。
テンギョクは遠い昔、数千年も前に一度だけ見たことがあったその男は──
「アムシャか。くはははッ!昔見たガキの姿と変わっておらんな!!」
神都を壊滅させ、アナトと互角にやりあったという正真正銘、最後の神であるアムシャに対し、恐怖もなければ、余裕の態度で話すテンギョクであった。
「キサマも変わってなくてビックリだぞ。まさか、まだあのような戯言を本気で叶えようとしているとはな」
「まだそのような事をいうか……。ふん、まぁ良い。確かに計画は変わっておらん。だが、意外と思っている以上に私は変わっていると思うぞ?」
「具体的には……?」
「心持ちだな。昔は自分の支配欲で計画した事だったが……神々が消滅し、とうとうアフラまでもが彼の地へと去っていった。いまや、この世界を守れるのは余しかいまい」
その発言に対し、アムシャは腹の底から笑いが出てしまう。
「ははははははははははははッ!!!!!いやいや、やはりキサマは変わっていないぞ!世界を守る?その思考に至っている時点で、人間よりも上と思っているその傲慢さ!愚かさ!ははははッ!これ以上、笑わせないでくれ!腹がねじ切れちまうぜ!」
これほど自分が馬鹿にされるのは久しぶりの事。本来であれば抑えられないほどの怒りで昂るかもしれないが、まさかこれほど笑われてしまうと思ってもおらず、テンギョクは逆に白けて呆れてしまった。
「そういうお前はどうなのだ?封印から解かれ、自由になり、数千年ぶりに世界を見て何も変わらなかったのか?」
その言葉に対し、アムシャは笑いを止め、真面目に答える。
「俺自身、驚く事を言うけどよォ、アナトの計画もあながち間違いじゃなかったと感じたぜ」
その発言は、テンギョクも驚かせるモノであった。




