戦争準備 7
アナトはテンギョクの対応がどう来るかなど、想像出来ていなかったわけではない。この戦争において、最も不利益を被るのは仙国だ。
そんな事は分かっている。故にアナトはしっかり用意している。テンギョクを説得させるためのモノを。
「まだ私は開戦布告の内容をまだ話していません。まず、そこを聞いてから判断しては如何でしょう?」
「……良いだろう、聞くだけなら無料だ」
「ありがとうございます。まず、冒険者ギルドが布告するのはセレシアではなく、メイガス・ユニオンという一組織です。もちろん、メイガス・ユニオンは魔術学研究を目的に国が設立した、まさに国家組織。しかし今や同盟国に支部を設置するだけではなく、あらゆる国、地域に侵入し、秘密裏に活動しています。また、これまでもお互い発言を控えていましたが、冒険者ギルド連合本部とも敵対しているのは第三者から見ても明白。さらに現在、世界は大きく揺れ動いている。そこにメイガス・ユニオンが動くとなれば、波乱の時代となるでしょう。なので今のうちにメイガス・ユニオンの活動停止もしくは解体をセレシアに求めます。この要求を来月までに飲まない場合、我々、冒険者ギルド連合本部はメイガス・ユニオンへと宣戦布告を申し込む、という内容になっています」
とても長い説明であったが、今、アナトが手に持っている開戦布告の書状や書類は数十枚あり、これでも短く丁寧にまとめてくれたのだろうというのが分かる。
だが不明瞭な所もまだあり、テンギョクは未だに納得をしていない表情であった。
アナトは補足を入れるように話を続けようとするが、先にテンギョクが質問をする。
「メイガス・ユニオンの宣戦布告と言うが、どのように戦うつもりだ?本部がセレシアにある以上、攻めるとなればセレシア領土を侵攻せねばなるまい」
「それについても既に条項に説明していまして、領土侵攻は一時的なモノで終戦後は必ず返却すること。一般市民を巻き込むような地域は侵攻しない、としています」
「セレシア兵士はどうする?メイガス・ユニオンの魔術師以外にセレシア兵士を動員するかもしれん。そうなれば、メイガス・ユニオンと冒険者ギルド連合の戦いではなく、セレシアとの戦いになるぞ?」
「それも明記しており、条項ではギルド連合に在籍する冒険者のみを動員すると言っていますが、今回の戦争を正式にはギルド連合加盟国対セレシア国設立組織というモノとしており、セレシア兵士と言った国軍、また無関係と思われる第三者の介入があった場合はギルド連合加盟国への宣戦布告とみなすとしています」
「ふははっ、なかなかえげつない事を言っているではないか。なるほど、面白い。他にも色々と聞きたい事はあるが、余を説得しようと来た事だけはあるな。考えが変わったよ。それでは一週間後だ。より書類の詳細を読んだのちに、貴殿に返答を送るよ」
「……ありがとうございます、では」
そうして、アナトは自分のプレゼンが上手くいった感触を持って霊霄殿から去る。




