戦争準備 6
場所は変わり、そこは仙国の首都、コーゲンミョウラクの中央にある天玉仙帝の住居であり、この国の象徴する建物である霊霄殿の中。
「ギルド本部からエイルが招集されたのは知っていた。が、貴殿が来た理由は何かな?」
玉座にどっしりと構えて、まさにこの国の皇帝として相応しい風格を表しながらテンギョクが話しかけるその先にいた相手は──
「アナト・サンキライ殿」
これまでも最強の冒険者、戦神とも呼ばれる戦士の腕からあらゆる人々から畏怖や尊敬の念を彼女は込められて来た。そして調和神アフラが消滅した今、冒険者ギルド連合本部の支配者はアナトである。
もちろん、実際は地方支部長の四人が運営的支配者だ。だが、所詮は方針を決めたり、規定を改正したり、ギルド運営費用をやりくりするだけ。表立ってしていることなどほとんどなく、冒険者らしく戦うこともない。そんな四人に冒険者たちは興味あるわけない。組織も、国も一緒だ。属している者たちをまとめ上げることが出来なければ空中分解してしまう。本来であれば調和神アフラが消滅した時点で多くの冒険者が他国、他組織に吸収されて分裂していてもおかしくなかった。それをミトラがいる事で押さえ込んでいる。
例えば、アナトが『冒険者ギルドとは違う、新しい組織を作って独立します』なんて言えば半分以上の冒険者がそっちに流れるだろう。だが、そんな事をせずに、ちゃんと冒険者ギルドの顔として動いてくれる彼女に地方支部長は頭が上がらない。
そんな実質支配者が自分から天玉に会いに来たのだ。
ただ事ではないのは確かだろう。
「先日、冒険者ギルドで決定したことがありまして──」
そう言って取り出したのは一枚の紙。
そこに書かれていた文字にテンギョクは驚く。
「開戦宣言……だと…!?」
しかも、その相手はメイガス・ユニオンと記載されている。
ありえない。
冒険者ギルド連合はあくまで治安維持を目的にしている組織だ。確かに冒険者は戦う事は多い。だが、それは魔物を狩る、犯罪者の捕獲、紛争地域の一般人を保護と言った場面での話だ。
そんな冒険者が……戦争?
目の前に正式な書状があっても信じられない。
「もちろん、これは既に格ギルド長や他の地方支部長には伝えている話。あとは天玉仙帝、東方支部長であるアナタが許可すれば行けるわ」
昨日、なんとかメイガス・ユニオンのごたごたを収集することに成功した。セレシアとの正面切手の戦争は回避した。というのに──
「……根回しは完璧、ということか。だが、我が国にとっては許容しにくい話だ」
セレシアを締め上げれば、締め上げるほど、国は暴走する。
政府は信用を失い、国力は低下する。経済も下がり、物流量もなくなる。そうなると内側からどうにかするのではなく、外部への略奪や攻撃へと政府は切り替えるだろう。
今、セレシアの仮想敵国は──
「そのようなモノ、許可出来ない」
この国の為政者として、テンギョクは発言する。




