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戦争準備 5

 ミトラはもうしばらく考えて……結局、分からなかった彼女はアイギパーンに質問をする。この状況で変に誤魔化す事もしないだろう。


 「どういう意味で?そして面倒を見るというけど、具体的には?」


 アイギパーンもまた、考え始める。だがそれはミトラのように相手の思考を読むと言った複雑なモノではなく、自分の想いを言語化するために考えているようであった。


 そうして彼は、自分の気持ちを口で表し始める。


 「あの子は……俺の弟子はまだ三十歳だ。俺たち人種ではあまり分からないかもしれないが、エルフからすればまだ十五にも満たないガキだ。精神的にも、肉体的にも若すぎる。まだアイツの人生は長い。俺のように──人を殺し続けるような人生はまともじゃない事ぐらい分かっている。これまでは傭兵としての生き方しか教えてこれなかったは……もっといろんな事を学ぶべきだ。俺の元から離れてな」


 「……それじゃあ、お前が望むのはシリウスが独り立ちするまでの生活支援に教育支援ってところか」


 「そうだ」


 やはり思っているとは違う、ベスから聞いていたような人物ではないようだ。彼は相手を想う事の出来る、人を大切に出来る人物だ。決して自分だけのために生きているような者ではない。


 もしくは、ベスの知らない所で彼は変わったのかもしれない。それこそ、シリウスとの出会いで──


 「まぁ、その程度だったら引き受けるよ」


 「……感謝するよ」


 ベスの表情にとてつもない安堵が生まれる。


 ずっと考えていた。


 シリウスが平和の道を行くためにはどうしたら良いのか、と。


 それはきっと、他の人から見たら簡単な事なのかもしれない。武器を捨てて、たくさんの人と関わって、笑って生きていけたら良いだけのことなのかも知れない。


 しかし、アイギパーンはずっと殺し合いの中で生き続けて来た。もう、ただひたすら戦い、殺し──もう彼は武器を捨てる方法すら知らなかった。そんな自分がシリウスを平和の道へと導けるか。


 否、出来るわけがない。


 だからこそ、このタイミングが。


 この交渉が。


 絶好の機会だと思ったのだ。


 (戦闘技術は叩き込んだんだ。アイツだったら、このまま冒険者として進むのも良いかもな)


 それらの様子を見て、思わずミトラは思った事が口に出る。


 「意外とやさしいんだな」


 それに対し、ははっと軽く笑う。


 「意外とってなんだよ。まっ、何はともあれ、これでガキの面倒を見る必要はなくなったってもんだ」


 「……そういう事にしておくよ。んじゃあ、これらの条件で引き受けてくれるか?」


 「あぁ、問題ない」


 そうして二人の交渉は終わり、ミトラは部屋から出て行こうとする、その瞬間──


 「アンタがどう考えてるかは知らない。でも、彼女の想いも考えてやった方が良いかも知れないよ?」


 そうしてドアを開けて出ていく時、すれ違いに入って来たのはシリウスだった。


 彼女の顔はぐちゃぐちゃであった。いろんな感情が入り混じっている。助かって良かったという安堵。されど、完治していないその体に不安を感じてもおり、それでいて何処か悲しくもある表情だった。


 「シリウス、どうしたんだよ、そんな顔──」


 「もう……無茶を、しないで、よ。師匠……」


 アイギパーンの言葉を遮って、自分の想いを伝えるシリウス。


 あぁ、そうか。


 俺がシリウスの事を考えていたように……お前も俺のことを──


 「そうだな、もう無茶はやめるよ」


 俺はシリウスを突き離してでも、一人で生きた方が良い人間だと思ったが……。


 今後は二人で生きていく事を考えよう、そう思うアイギパーンであった。

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