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戦争準備 4

 交渉というのは、お互い公平な取引をするためにあるのではない。なるべく少ない手札で、自分の有益な条件を引き出す事だ。手札が余れば、取っておけば良い話。それはきっと今後の転がり方によっては捨て札にも、切り札にも成り得るからだ。


 今回の交渉でもそのように思っていたが──


 「……あるよ」


 ミトラは諦めることにした。


 「ったく。私も本業は戦士で交渉術は得意じゃ無いっていうのに」


 「ギルド連合トップの剣聖様も大変なんだな、同情するよ」


 コイツ(アイギパーン)のせいで忙しい事になってるのが分かってんのか?なんて思いながらも、それを心の中だけに留めておくミトラであった。


 彼女はこほん、と咳払いして話を続ける。


 「私たちが出すのは、身柄の保証に経済的支援。そして一部国家の指名手配取り下げ。悪く無いメリットでしょ?」


 アイギパーンはミトラの出した提案を一度、頭の中で整理し、考える。確かにこれら三つはまさに破格の提案だ。条件を呑むしかないと思えてしまうほどに。


 だが、先ほども述べた通り、交渉とは公平な取引を行うモノではない。この三つの提案を出して来たということは、これらは冒険者ギルド連合本部が『出しても問題ない提案』と思ったから出して来たんだ。つまり、『最低限、譲歩できる提案』ではないということ。


 まだまだこちらに有利な結果へと持ち込む事が出来るはず……であれば


 「一部の国家って所をなんとかならないか?」


 「いやいや、それは無茶言い過ぎだぜ」


 冒険者ギルドという組織はどこの国家にも属しないと明言している。だから民間人の非難、救助のために戦争に入り込むことはあっても、戦い自体に介入はしない。


 それは、戦争以外でも同じ事だ。


 各国それぞれの法律に則ってアイギパーンを指名手配している。そこに頭を下げに行って取り下げを願うという行為が冒険者ギルドの規定に反している。それでも一部の国家ではなんとか許しを貰ったのだ。それ以上のモノを求めるというのは強欲というモノだ。


 「本当にダメか?」


 「無理だ、こればっかりは譲歩出来ない」


 やはり、ダメか。


 これが無茶振りであるとアイギパーンも想像出来ていたこと。だから敢えてこれを言ったのだ。


 一度、限界を超えた要求をする。その次に、それよりも簡易な要求をすることで『まぁ、その程度なら──』と本当に通したい要求が通りやすくなる。


 そう、アイギパーンが本当に要求したいことは──


 「だったら、俺が追加で要求するのはもっとささやかなモノにするよ。俺の弟子……シリウスの面倒をギルド側がしてくれないか?」


 それを聞いてミトラは考える。別にその要求事態は難しいモノではない。ただ……どうしてそんな要求をするのか、そこがミトラには理解できなかった。


 それに一体、何のメリットがあるというのか。


 アイギパーンがどのような人物なのか、ベスから聞いている。自分の利益を優先するような人間であると。だからこそ、どうしてそのような要求をするのかが分からなかった。

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