戦争準備 3
喉の痛みが少し引いて、ラクになったアイギパーンはミトラに感謝をする。
「ラクになったよ、助かったぜ」
「あぁ、そりゃあどうも。んじゃあ、ようやく本題へと入れるな」
「おいおい、体を動かせない。さっき意識の戻った怪我人に複雑な思考を求めるのか?」
自分は世界的犯罪者だ。特に冒険者ギルド連合本部からすれば、対立組織であるメイガス・ユニオンのために神代の遺物を盗んだ大罪人だ。そんな自分をここまでして助けたという事は絶対、裏に何かある。
成り行きというのもあるが、肉体戦闘が出来るからこそ、これまでずっと傭兵という仕事をしてきた。というのに、ここに来て頭を使う交渉戦になるとは──
「いいや、違うね。アンタは私の話にイエスか、はいの二択しかないと思ってくれて構わないぞ」
「おいおい、そりゃあもうお話じゃなくて、脅迫だぞ」
「まぁ、とりあえず話を聞こうねってコト。それじゃあ、良い?」
今の状態じゃあ、もう逃げる事も出来ない。武器を取って抗うのも無理。まな板の上の鯉ってやつだ。
「もう勝手にやってくれ」
ミトラは周囲にいた人たちへと目線を送る。彼らは全てを理解したように、シリウスを連れて別室へと移動する。本来であれば公平な取引のために第三者の目があれば良いのかも知れない。だが、ここは非公式の交渉の場。一体、どんな言葉が出るか分からない。
知られたく無い情報、知りたく無かった情報。あらゆるモノが飛び交う可能性がある。
「かなりの慎重さだな」
「まぁね、でも手短にするから安心してよ。とりあえず私たち冒険者が求めることは三つ。一つはメイガス・ユニオンに関する情報提供。二つは戦力低下している冒険者に戦士として協力して欲しい事。最後はアナタが使っている銃の弾丸。あれって魔鉱石を加工して作ってるんでしょう?その技術提供よ」
なるほど、そういう事か。
確かに、これら三つの条件は冒険者ギルド連合にとっては必要なモノだろう。敵対組織の情報を知りながらも、弱い戦士にも銃を持たせることで大幅な戦力増強を可能にする。なんと強欲なことか。
だが、それでは──
「まだ話は終わってないだろ?なにせ、俺たちのメリットがない。こっちもボランティアじゃないんでね。お互い有益と思わないとフェアじゃない」
「おいおい、それで犯した罪を忘れたのか?」
「あれはあくまで『依頼』されてやった。実行犯ではあるが、首謀者じゃない。それに、俺としてはメイガス・ユニオンの情報提供だけで罪は帳消し出来ると思うんだが?」
「舌が回るねぇ。誰が意識戻ったばっかの怪我人だ?充分思考できてるじゃん」
「俺でもビックリだよ。んで?こっちのメリットは?もちろん、あるんだろ?」
しばらくの間、沈黙が続く。その間であってもお互いの目線を逸らすことなく、お互いの目を見ていた。どの発言が信用できて、どの発言が嘘なのか。見抜く探偵のように。




