ダイモン 58
「おっ、新たな敵、見つけたぞー!」
テンギョクとローリィの所にずるずるとあるモノを引きずって歩いてくる場違いな者がいた。
それは血まみれで現れたその女は魔術師のような格好をしており、とんがった独特の帽子を被っている。だが、それ以上に彼女の最も大きい特徴は赤と青の混じった派手な髪色と、両目に黒眼まなこは見えず、その代わり五芒星が浮かび上がっていた。
それが外界の者のアニマ・ムンディであった。
だが、そんなことよりも──
「……マジ、ですか!?」
困惑の声がローリィの声から漏れる。
皆、アニの引きずっているモノへと意識が向いていた。
テンギョクも、それを初めて見るが、それが一体何だったのかをローリィの反応から察する。また離れて見ていたミトラも驚き、アナーヒターは「まぁ、そういうことする奴だよな」という反応であった。
それは、一人の男。
黒い神のエルフの少年。
ローリィと一緒に仙国へと訪れた、ダイモンの一人。
「ハニエル……!」
その名前をぽつり、とローリィはつぶやく。
「ん?なんか戦う雰囲気でもなさそうだな……。一体、どうなってる?ええっと……とりまアナーヒター、この状況を説明してくるか?」
ずるずるとダイモンの死体を引きずって来たお前の状況を逆に教えてほしんだが……と思うアナーヒターであった。
テンギョクはアニに近づき、ハニエルの死体を確認する。
「魂も、精神もぽっかり消えているな。どのように殺せばそうなる?」
「まぁ……ちょっとやりすぎれば?」
これでは自分の治癒術でもどうしようも出来ないな、とテンギョクは悟る。
またローリィはめんどくさそうにはぁー、と深いため息をつく。
ローリィは北方の英雄で、エルフを象徴する魔術師と言っても過言ではないほどその存在は大きい。ゆえにローリィを見逃すことで状況がこれ以上、変な方向に行かないよう見逃すということにしたのだが……。
ハニエルはローリィほどの存在はない。もちろん、メイガス・ユニオンの中ではトップクラスの魔術師として活躍しているが、ローリィほどではない。ただ問題なのはハニエルがトップシークレットであるダイモンであるという点だ。
そのダイモンが死んだ……。
今、目の前に現れたこの女が仙国の人間ではないことぐらい、なんとなく分かる。だが、仙国の首都、コーゲンミョウラクというこの死んだ場所がダメだ。国の組織が、より強い魔術師を生み出すために造り上げたダイモンが仮想敵国のど真ん中で死んだというその事実が危険すぎる。
報告をごまかしたいが、上層部はハニエルが仙国へ向かった事を既に知っている状況だ。
「本当に面倒な事になったな……これをどう報告するべきか」
目の前に認めたく事実をただ見つめながら、立ち続けて頭を抱えるローリィであった。




