ダイモン 57
テンギョクはまだ国民にあらゆる我慢をさせなければならないということに対して、自分の不甲斐なさを実感していた。それに対し、ローリィは見逃してくれるというテンギョクに対し、自分は何も関係ないと言わんばかりにそっけない態度を取る。
「アナタが私を見逃すかどうかは、アナタが決めることなのでね。ですが、感謝はしています。この恩は必ず何処かで返しますから」
「……義理堅い奴よ、やはり良い。欲しい人材だな」
「まだ言いますか、アナタも変わった人ですね」
先ほどまで殺し合ったというのに──いいや、殺し合ったからだろうか。お互いに謎の信頼が生まれ、まるで友達かのように軽いやり取りが続く。
「ようやく戦いは終わったのね……んで?これはどういう状況?」
そこに一人、現れたのは剣聖ミトラであった。
そこにテンギョクとローリィの激しい戦いの最中、治癒魔術で肉体を癒すことで完全復活したアナーヒターがミトラに近づき、説明する。
「ローリィを見逃す方向に行ってるみたい。まぁ、ローリィはセレシアの英雄。仙国で捕虜になったとか、処罰されたという話になったら……ってことみたい」
「確かに考えればそうか。ただでさえ、仙国とセレシアは仮想敵国として対立しているもんね」
しかし、同時にミトラは思った。もしも、自分が強ければどうなっていただろうか、と。
自分たちは仙国の人間ではない。そのうえ、冒険者ギルド連合本部の人間だ。その自分たちであれば、ローリィを捉えた所で問題はなかった。もちろん、多少の報復はされるかもしれないが、そもそも既に神都崩壊時にメイガス・ユニオンに侵攻されたのだ。今更、報復された所で大した問題にはならない。
つまり、冒険者ギルドとしてはギタブル・へティトをさっさと始末した上でローリィを捕虜とする。そのうえでセレシアと交渉することが出来れば──
「終わったことを考えても仕方ないことだよ。それに今はサルワ達やアムシャの行動も不明だし、仙国とセレシアが戦争状態にならなかっただけ良かったと考えた方が良いのかもね」
調和神アフラが消滅したことで世界が慌ただしくなっている所に大国同士の戦争が始まれば、世界の破滅がより近づいていたかも知れない。そう考えれば、確かに良いのかもしれない。
そのように思っていると、どうやらテンギョクとローリィの話も終わったようだ。
「さて、私はハニエルを回収してそろそろ退散します」
そうしてローリィは去ろうとする。
「ハニエル?もう一人、誰か来ていたのか?」
「えぇ、私と同じくダイモンの権能が使える奴です」
「……あぁ、あの神獣を召喚した者か。あれもなかなか面白かったな。やはりダイモンというのは神そのものというより、眷属としての権能のようだな」
「それに関しては何も言えませんね。メイガス・ユニオンの中でも最高クラスのトップシークレット情報です。あそこにいるアナーヒターなら何か知っているかもしれませんが──私からは誰であろうと喋ることは許されておりませんので」
テンギョクの質問をローリィはそのように説明して答えることはなかった。




