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ダイモン 56

 一秒も経たないうちに、ローリィの炎とテンギョクの拳が交わる。


 二つの莫大なエネルギーが衝突するその光景はまさに驚天動地。もう既に人の戦いではなかった。世界すらも崩壊しかねないほどの力となっていた。


 だが──


 「ッ!!」


 ローリィが出現させた炎の球体、〈ゲート・オブ・ドゥーム〉が掻き消され、テンギョクの放った〈我旋界轟《がせんかいこう〉がローリィに襲いかかる。


 ぐるぐるとエネルギーの渦によって皮膚は剥がされ、肉が削ぎ落とされる。血は流れ出すも、すぐに霧散霧消していく。肉の抉れた箇所から骨も見え始める。魔力だけでなく、ダイモンの力も使い、なんとか身を守ろうとするが、それすらも意味がないらしい。どんどん傷だけが増えていく。


 そして──


 「ふむ、人の形だけは残ったか」


 そこには一部の肉と骨だけを残して仁王立ちしているローリィだったモノがそこにはあった。


 「いやいや、復活させるために肉一片程度は残してやろうと思っていたが……やはりキサマが欲しい。その高い実力を認めざるを得ないな。さすがは北方の英雄、チャミュエル・ローリィ」


 改めてチャミュエルの事を認めたテンギョクは神の力を右手に集め、死体へと触れる。


 「まだ魂も、精神も肉体に残っているな。であれば、肉体を再生させるのみだな」


 それは絶大魔術すらも超える治癒の術式、まさに人智を超えた神術であった。


 消えた一部の骨が再生し始め、さらにその骨を中心に肉が付いていく。そして血管や神経がつながり合い、その上を皮膚が覆っていく。こうして気づけば、元のチャミュエル・ローリィの姿へと戻っていた。


 彼女はすぐに眼を開くが、しばらくは何が起こったのか理解出来ずにいた。数秒後、ようやく自分が一度死んだ事を思い出すと、この一分もしないうちに死んで生き返るという信じられない事象に得体の知れない不安と恐怖で大量の汗が流れ出し、膝が折れてその場に座り込んでしまう。


 「はぁ……はぁ……!」


 浅い呼吸を繰り返し、素早く鳴る鼓動を抑えるように胸を手で抑える。


 「これである程度、余の怒りは収まったわ。あとは祖国に逃げかけるも良し。こちらに投降しても良い。もちろん、余の部下になるという選択肢もあるのだがな」


 「……何度言われてもアナタの部下になる気はありませんよ」


 落ち着いてきたのか、呼吸が整ったローリィは額の汗を腕で拭いながら立ち上がる。


 「くかかかッ!では余は今回の騒動の犯人を知ったうえに、目の前にいるというのにも関わらず見逃さないといけないとはなッ!あァ、キサマが殺しても良いほどの人材であれば、今すぐ殺して我が民の前で吊し上げたというのに……」


 ローリィを見逃す。これはテンギョクのわがままであり、本来、統治者としてはやってはいけない行いだ。だが、同時に今、ローリィを殺してしまえば自分の欲しい人材は死んでしまう。そして、場合によっては英雄であるローリィを殺した報復でセレシアと戦争状態に発展してしまい、国民を苦しめる可能性がある。


 今を生きる国民とは違い、王は未来を見据えなければならない。そのために、今は我慢して貰わなければならない。

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