ダイモン 55
あれほど力強く、しっかり納得のいくように言葉を選んでいたというのに、ハッキリと断られてしまったテンギョクだったが、悲しむことがなければ、怒りが湧くこともなく、冷静に訊ねる。
「余の誘いの何処に不満があるというのだ?」
それに対し、ローリィは纏っていた炎を抑え、荒くなっていた口調も元の丁寧な性格に戻り、テンギョクに対して真摯に答える。
「天玉仙帝殿。アナタの誘いはとても魅力的でした。そして、アナタがただこの世界を支配したいだけの愚者でないことも」
テンギョクは少し驚いた様子だった。だが、それを無視してローリィは続けて話す。
「でも、私は故郷を想う気持ちの方が強い。もちろん、私が根っからの善人ではありません。人並みに欲もあります。しかし、それを超えるほどに故郷を良くしたい。私の種族、エルフがこの世界を統べるに相応しい種族であると証明したいのです!故にアナタの部下にはなれません」
「そうか……」
テンギョクは少し残念そうであった。が、同時にこのように思っていた。
テンギョクは自分の真意を全て話したわけではない。欲しい人材だからと言って全てを話すわけがない。部下になり、信頼を築き、そこでようやく心から自分の計画、思惑を話せる相手となるのだ。
帝王と名乗る自分はこれまで多くの相手から支配欲の強い者だと思われてきた。しかし、ローリィはその初対面のイメージを捨て、自分の話を聞いてくれたのだ。だからこそ、『支配したいだけの愚者ではない』という言葉が出たのだろう。
やはり……断られてしまったがローリィが欲しい。
だが、今、どれだけ詰めても説得することは出来ないだろう。
「まったく、キサマもトーゼツも……余が欲しいモノはいつも難しいモノだな!!」
テンギョクを中心に凄まじいエネルギーが周囲に舞う。
「あの神獣を屠った同じ技では面白くない。ここは余の持つもう一つの……究極の一撃を以て、今回は幕を下ろすとしよう!!」
テンギョクは腕を回し、腰をひねる。その動きに合わせるように周囲を舞っていたエネルギーが渦を巻く。まるで世界そのものを回しているのがテンギョクであると思えてしまうような光景であった。
何かが来る。これほどの力の渦だ、広範囲できっと避けることは難しいだろう。防御系の絶大魔術……いいや、無理だ!絶大級の魔術でも防ぐことは出来ない。であれば──
(天の権能を使って相殺するしかない!!)
ローリィはすぐさま炎を纏い、詠唱を開始する。
『我は父なるモノの力そのものであり、この地の罪を断罪する者!万物に破壊をもたらす最悪なるダイモンである!破壊の門よ、開け。〈ゲート・オブ・ドゥーム〉!』
詠唱と共にローリィの目の前の空間に巨大な穴が開いたかと思えば、そこから炎の球体が出現する。それはまさに太陽と変わらない……いいや、太陽以上の熱と光を帯びたその光は、テンギョクの攻撃を待つ。
「ほぉ、それがダイモンの力か?くははッ!良いだろう、その程度で余の究極の拳に勝てるか、試してみるとよい!」
とうとう、テンギョクの拳が放たれる。
「我旋界轟!」
拳を中心に、渦を巻いたエネルギーが放たれる。まさに、星を運行出来るほどの力であった。




