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ダイモン 54

 ローリィは思考を切り替える。


 これは自分の弱い事を自覚する戦いではない。


 圧倒的な相手。古今東西見渡しても存在しないかもしれない最強の仙帝と手合わせ出来る機会であり、自分を成長させることが出来る戦いである、と。


 そうして掻き消された炎を再び纏い、ローリィはテンギョクを見る。


 「良い眼をしているな!人だけが許される眼だ」


 仙人として……。この世界の帝王として生まれたテンギョクだからこそ、調和神アフラが人へと時代を明け渡そうとしていたその気持ちがとても共感出来る。


 テンギョクもまた、彼女のように人へと想いを馳せる。


 でも、だからこそテンギョクは調和神アフラとは違う道を往くのだ。


 「やはり……欲しい」


 テンギョクは呟くと同時に、表情に変化が現れる。先ほどまで怒りで満たしていた雰囲気に、まったく別の感情が混じっていく。


 「はははッ!ダメだな。怒りは勿論あるが、怒りよりも昂る感情が耐えきれん!殺して、捕縛して、貴様の罪を精算してから言うつもりだったが──」


 テンギョクは戦いの構えを解き、手を招く。


 「我が部下になれ!」


 「………はぁ?」


 思わず、変な声が出てしまう。


 なんと言った?


 部下に……なれ?


 今まで怒りに任せて、自分を殺そうとした相手が私の部下になれ……ってどういうこと?


ローリィは長命種であるエルフ。この若い見た目で実際は百年以上は生きている。もちろん、人間と比べて肉体的、精神的成長などは遅いがそれでも人間の倍の経験はある。そんな彼女が情報処理しきれないほど困惑している。


 「さすがに唐突すぎたか。まぁ、少し余の説得を聞くが良い」


 なんだかテンギョクのペースでたたでさえ困惑している思考がさらに話についていけずにいるのだが、これを機に少しばかり体力を回復させるか、とポジティブに考えて呼吸を整えるローリィであった。


 そしてテンギョクは勝手に説明を始める。


 「キサマも言っていたが、調和神アフラが消滅した今、世界中のあらゆる国、力を持った者たちが次の覇権を握ろうとしている。それは余とて例外ではない。しかし、余の力だけでは不可能であるとも理解している。故に、余は人材を求めている!それは単純なパワー、才能などではない!人類として誇れる精神を持った者を求めている!キサマにはそれがある。余の部下に成るのに相応しい覚悟を持っている。キサマも仙国の民になれば、病気にも、老いにも負けぬ不老長寿を手に入れられる。それ以上にもあらゆる幸福を享受出来ると約束しよう。どうだ、部下にならないか?」


 メイガス・ユニオンを裏切るという大きく信頼を失うデメリットに対して不老長寿という明確なメリットがあるという事でこちらを説得させようとするその言葉からして、テンギョクは本気で自分を味方に引き込もうとしているというのがローリィにも伝わる。


 しかし──


 「いいや、断るね」


 ローリィは迷わず、ハッキリと答える。

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