ダイモン 52
テンギョクは神の力を纏いながら、ローリィを見る。
「さて、まだまだ話したいことはあるが、もう良い」
拳に神々しい光が現れ、それはあらゆるモノ全てを破壊してしまいそうな力であった。
「キサマ……ここから無事だと思うのか?」
テンギョクの雰囲気がガラリ、と変わる。
自分の民、自分の領土、自分の都……その全てを荒らされたのだ。今まで余裕そうな表情だったが、やはり心の中では怒りが溜っていたのだろう。テンギョクは近寄りがたい気配を漂わせる。
「余の国は、余の力によって天にも負けぬ誰しもが至極悦楽を味わう楽土である。それに傷をつけようとする者どもを今、ここで排除してくれるわ!!」
その殺意は凄まじいモノで、近くに居たアナーヒターも、自分に向けられていないと分かっているのにも関わらず強い恐怖を感じていた。
しかし、ローリィにとっては問題ではないようで態度も表情も、何も変わらない。
「それが出来るの?私はメイガス・ユニオンの最強の切り札であり、セレシアの英雄。今回の騒動を起こしたのが私であり、メイガス・ユニオンによるものだと分かっているのはまだ少ない」
「………何が言いたい?」
「つまり情報操作が効くってことです。ここで私を殺す、もしくは捕縛しようものなら仙国とセレシアはきっと戦争になるでしょう。調和神アフラが消滅した今、世界各国が覇権を握ろうと我先と動いている。戦争の準備を行い、情報収集をしている。もちろん、それはセレシアも仙国も変わらない所でしょう。でも、今はまだ早すぎる。ここは穏便に済ませておきませんか?」
そう、まだ仙国の市民はメイガス・ユニオンの仕業とは知らない。国民感情をまだ操作できる可能性がある以上、戦わない方が良い。
テンギョクもそれが最善であると分かってはいる。だが──
「それだけか?」
「……はい?」
「キサマの言い訳はそれだけかと言っておるのだァ!!!!」
テンギョクは一歩、右足を強く踏み込む。
大地は震動し、世界は大きく動き出す。
ローリィは慌てて魔力を放出し、肉体を守るように纏う。
そして次の瞬間──
「ふんッ!!!!!!」
テンギョクから放たれたその右拳はローリィの胴体へと入る。
「ッ!!!!」
魔力だけではその威力を殺し切ることは出来なかったようだ。体中に痛みと衝撃が奔り、口から一気に血が溢れ出る。そして、そのまま後方へ数十メートル吹っ飛ばされていく。
だが、これだけで終わらせるつもりはないらしい。テンギョクはさらに追撃を入れようと駆けだす。その動きは地面と一体化する地同歩であった。
「殺すつもりはない。だが、キサマの全てを許すつもりもない。ここは一度、死んでもらう!安心しろ、余の仙術で何度でも復活させてくれる。、余の総頂拳を以て全力で死を味合わせてやるわ!!」
拳を広げ、掌底打ちの構えへと変わる。
「ちィッ!私も本気でいかなきゃマズイな、これは!!」
ローリィの雰囲気が再び荒々しいモノに変わり、魔力が炎へと変換されていく。




