ダイモン 51
戦いが終わり、テンギョクは周囲を見渡す。
そこは瓦礫で埋もれていた。血や肉があちこちに散り、まさに見るに堪えない。信じられないほど自分の国、領土が荒れ果てていた。
「まったく、メイガス・ユニオンの奴らめ。良いようにしてくれたわ」
さて、どのようにけじめをつけさせるかを考えていると──
「む?」
ひゅー、と何かが空中を滑空している音が響き、次の瞬間にはテンギョクのすぐ近くに強い衝撃が奔る。どうやら何かが落ちてきたようだ。土煙が舞い、何が落ちてきたのかはその眼で直接確認は出来なかった。が、テンギョクは気配ですぐに察知する。
「アナーヒターか?」
「その声は、テン……ッ、ぁ!」
びちゃびちゃ、という水の音と一緒に鉄の匂いが周囲に広がる。見えないが、なんとなく予想出来る。どうやら、彼女は吐血をしているようだ。
「無茶をするな。お前はここで下がっていると良い」
水神とも呼ばれているアナーヒターがここまで追い詰められているとは……。一体、相手は何者なのだろうか。テンギョクはギタブル・へティトを相手する時よりも警戒して戦闘の構えを取る。
そして、吹っ飛ばされたアナーヒターを追いかけるようにやってきたのは──
「はぁ?天玉仙帝もいるのかよ。ったく、アナーヒターを相手するだけでも面倒だっていうのに、もっと厄介な奴がいるじゃねェか」
まるで太陽の如き炎を纏い、異様な雰囲気を漂わせて来たのはチャミュエル・ローリィであった。
「キサマが余の国を荒らした不届き者か?」
「いいや、あのギタブル・ヘティトを召喚した馬鹿は私じゃない。これは……あぁ、クソ。これだと上手く思考が定まんねェ」
そうつぶやくと、ローリィの魔力が収まっていき、纏っていた炎も次第に消えていく。
「ギタブル・ヘティトを召喚したのは私の仲間ですよ。まぁ、私も多少は市民を巻き込みながら街を壊しましたけど……」
口調も変わり、礼儀正しい性格へと戻っている。
(ふむ。あの炎……あの力は神に似ているが、少しずれている。四方星のような眷属のような能力でもない。であれば──)
ローリィの正体に少し思い当たる節がテンギョクにはあったようだ。
「そうか、キサマは噂のダイモンか!」
「……ダイモンは組織のトップしか知らない話。それを知っているということは、メイガス・ユニオン内部に仙国の者が入り込んでいるということですか」
「さぁ、どうかな」
テンギョクはとぼけているが、口に出さないだけでその口調や言葉の裏にはローリィのセリフを肯定するような意味が含まれているように感じる。
ローリィもまた組織を裏切っているような状態ではあるが、彼女の行動原理は自分の故郷であるセレシアを良くしていきたいという感情から来ている。今のメイガス・ユニオンに変革が必要だとは思っているが、組織そのものを解体したいとは思っていない。
「あとで部下に探させるとしますか……」
面倒な仕事がまた一つ、増えたなと思うローリィであった。




