ダイモン 48
ギタブル・へティトは動かない。
それは電撃によって体のあちこちが熱で焼けこげている。まだ痺れが残っているなどと、いろんな理由があるが、それよりも──
「ふむ、余の実力を感じ取って様子見、という事か?」
神をも裁くその獣は、天玉仙帝が神と同等の存在であると理解したのだろう。だからこそ、これまで以上に警戒して動かないのだ。
「では、余から行かせて貰おうか!!」
右拳に力を込め、左足を力強く前に出す。今、テンギョクのいる位置はまだ拳が当たるような距離ではない。それでも、左手を照準のようにかざし、そして──
「はァ!」
力強く放つ右拳。やはりギタブル・へティトに当たらない、がその拳の衝撃が空気を通してギタブル・へティトに直撃し、甲殻を破壊していく。甲殻の下にあった肉をも抉り、多くの血を吹き出す。
「ッ!!!」
予想以上の威力と、耐えきれないほどの痛みで声にならない叫びをあげる。
「こちらも小手調べ程度だったというのに、耐えきれぬか……。では、もう一発!!」
拳をもう一度、放ち、さらにダメージを与えていく。やはりこれほどの巨体、血の量も人間以上だ。びちゃびちゃ、と血溜まりを作り、世界を真っ赤に染めていく。
ギタブル・へティトもこれ以上、ダメージを受けるのは危険と思ったのか。鋏を持ち上げ、それを勢いよく振り下ろす。
「反撃、か。避けるまでもないな」
先ほどまで放っていた右拳を引くと、真正面から鋏を受け止める。自分の何倍もの大きさ、自分の何十倍もの重さの鋏を、だ。
「ッ!?」
「一応、受け止めたが……なんだ。この程度の威力か」
自分の攻撃が一切、効いていない。この状況にギタブル・ヘティトは動揺しているようだ。それに対しテンギョクは一切、慌てることもせず、表情にも変化はない。そして、テンギョクは少しばかり右手に力を入れ、その巨大な鋏をいとも簡単に押し返す。
それにより大きく態勢を崩すギタブル・ヘティト。そこに向けて更に一発、テンギョクは容赦なく拳を放つ。
あれほど頑丈だった甲殻はもう粉々に砕け散り、神獣と呼ばれるような化け物の姿はなかった。ただ、巨大な肉塊だけがそこにはあった。
「これで終わりか……」
戦闘の構えを解き、服についた埃をぱっぱと両手で払う。
だが、それでは終わらない。
「おや?」
肉塊を一瞬で透明な膜が包み込んだかと思えば、どんどん肉塊の形が戻っていく。そして数秒後には完全に復活したギタブル・ヘティトがいた。
「再生……いいや、これは不死か。確かに、蠍は古代から脱皮することから不死の象徴とされてきたが──」
同じく神の力を持つテンギョクだからこそ、目の前にいるこの蠍の正体を理解する。
人々の信じる想いから神などは生まれる。きっとは元々、ただの巨大な蠍の魔獣だったのだろう。そこに神代に人々の想いが重なることで神獣へと昇華された存在。それがギタブル・ヘティトなのだ。




