ダイモン 46
シリウスとギタブル・へティトは睨み合う。
この状況……圧倒的にギタブル・へティトの方が優勢だ。シリウスには無駄な足掻きをするしかない。
だが、アイギパーンとの戦いでギタブル・へティトは拳銃が危険なモノであると学んだ。使い方によっては神獣とも呼ばれる相手でもダメージを与えかねない武器である、と。
だからこそ、シリウスをよく観察する。油断することなく。
「………」
シリウスはギタブル・へティトの思考が読めない。どうして動かないのか、分からずに居た。
だが、動かない今がチャンスではないのか?
アイギパーンを抱えてさっさと走り逃げてしまえば助かるのではないか?
そのように思い、ちらり、と一瞬だけアイギパーンの方へと意識が行く。
その一瞬をギタブル・へティトは見逃さなかった。
持ち上げていたその巨大な鋏を問答無用で振り下ろす。
その速度、威力……どれもシリウスでは太刀打ち出来るモノではなかった。
もう終わり……思わず目を瞑ってしまう。しかし──
「……?」
いつでも経ってもその鋏は落ちてこない。
一体、何が起こっているのか。眼を開けて確認すると──
「間に合った………!!!」
剣でギタブル・ヘティトの鋏を受け止めている者の姿があった。
シリウスはその者を知っていた。
「剣聖ミトラ……!どうして!?」
「話はあとよ!とにかくここから退散するわよ!!絶大剣術〈一振大断〉!」
ミトラは剣に魔力を送り、術を発動させる。すると、自分の何倍もの大きさ、何倍もの重さの鋏を持ち上げていくと、そのまま強くはじいてみせる。
まさか押されるとは思っていなかったギタブル・ヘティトは態勢を大きく崩す。
「今のうちだ!じゃなきゃ巻き込まれる!!」
そうしてミトラは焼けこげのアイギパーンを荷物を持つように抱えながら、シリウスの手を強く引っ張りながら走っていく。それはギタブル・ヘティトの追撃を気にしない、背後を見せながらという、何も考えない退散方法であった。
「巻き込まれる、って……一体、何が──」
何が起こっているのか、シリウスが困惑している中、ギタブル・ヘティトはいるであろう背後から大きな衝撃が奔り、大地が震撼する。
走りながらも、少し後方へと意識を向けて何が起こっているのかを確認する。
そこには天から一筋の眩い光が落ちており、ギタブル・ヘティトを貫ぬくと同時にバチバチィ!と激しい音と立てている。ある程度、離れているシリウスですら感じるほどの熱がそこにはあった。燃えているわけではないが、熱によって肉が焦げたのか。嫌な臭いと甲殻の隙間から煙が漂ってくる。
それでもなお、ギタブル・ヘティトは死んでいなかった。
痛そうにゆっくりと、しかし確実に動き出す。
そこに再び、光が堕ちる。




