ダイモン 44
粉塵爆発。
空気中に舞う、可燃性のある粉が引火することで発生する現象である。その威力は粉塵の大きさによって異なっており、粉塵が小さければ小さいほどその威力は大きくなる。
その威力は手榴弾にも負けない。しかし、恐ろしいのは威力ではなく、その範囲である。
手のひらサイズの手榴弾の範囲は十五メートル程度と言われているが、今回アイギパーンは小麦粉を倉庫中にばら撒いた。つまり、一個の建物が巨大な手榴弾になったと考えても良いだろう。
であれば、その爆発範囲は一体、どうなるというのか。
「ッ!!!!!」
ギタブル・へティトはその爆発を真正面から喰らってしまう。
どんな攻撃をも防いだ甲殻は、爆発からもその身を守っていく。だが、問題は熱だ。どんなに硬くても熱から身を守ることは出来ない。粉塵爆発の温度は五百度にも達するという。それほどの熱が甲殻を伝って肉に入ってくる。
声にならない苦痛の叫びをギタブル・へティトはあげる。
「あれは……何だ?」
その爆発は遠くで戦っていたチャミュエルとアナーヒターからも目視出来ていた。
「派手にやりますね、アイギパーンも。さすがは伝説の傭兵。あの神獣と渡り合うとは。しかし、ギタブル・へティトは不死性を持つ。あの程度では死にませんよ」
「そうかよ、でも……」
アナーヒターは空気中の水分を集め、それをまるで弾丸のように放出する。それをアイギパーンは魔力と炎を纏った両手ではじく。のだが──
「くッ!」
どうやらこちらの防御よりもアナーヒターの攻撃威力の方が上だったようだ。炎と魔力を貫通し、しっかり両手から血が流れ出ている。
「アンタは不死身じゃない、チャミュエル・ローリィ!!」
「……さすがは術聖アナーヒター。確かに私は不死身ではない。でも、アナタも私は殺せない!!」
二人の戦いはさらに激化していく。
「師匠!!!!」
あの爆発を見て、急いで走り出したのはシリウスであった。
爆発の周囲には炎が舞っており、呼吸するだけで肺が焦げてしまいそうなほどの熱が散っている。そこに魔力を纏うことで自分の肉体を守りながら進んでいく。それでもなお、炎と熱を無効化出来るわけではない。身体のあちこちに黒く焼けていき、血も流れ出す。
それでも彼女は止まらない。
しかし、どんどん爆発の中心地に進むたびに炎と熱は増していく。もうそこは水が一瞬で蒸発してしまうような環境。人が決して踏み入れて良いような所ではない。眼の中の水分もすぐに無くなってしまいそうだ。そして、それだけではない。シリウスは一度に生成出来る魔力量が少なく、故にこれまでもすぐに魔力切れを起こしてしまっていた。
今回も、ただ身に纏っているだけだというのに、もう魔力が切れかかる。
だが、彼女は諦めない。
師匠であるアイギパーンを救うために。




