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ダイモン 41

 ハニエルは血を拭い、影へと魔力も、意識も、その全て影へと注げている。今にも脳みそが沸騰しそうなほど熱く、鼻以外にも目や耳からも血が出てきそうだ。


 だが、ここで退く事は出来ない。


 このアニマ・ムンディとかいう、この外界の者(アウトレンジャー)の女を殺さなければ、自分がられる。今こそ、死ぬ気でやらなければならない!


 ハニエルは自分の分身を操作し、アニに向けて突撃させる。


 シリウスの時は距離の関係もあり自動操作にしていた。だが、今、この距離ならば遠隔操作で──


 「ッ!!!!」


 何度も言うが、何十体もの魔獣、魔物を召喚しているうえに自分の分身を操作しようとしているのだ。もう脳が完全に狂い始めている。大脳が破損したのか、感情の波がいつもより激しい。自分の記憶がごちゃ混ぜになる。


 どうして自分がここにいるのか?どうしてこうなっているのか?いいや、そもそも自分が何者なのかさえ分からなくなってくる。


 だが、ハニエルは頭ではなく、心で……意思を持って戦い続ける。


 「死にやがれ、このクソったれがァァァァァァァ!!」


 分身は巨大な魔法陣を描き、絶大魔術を発動させようとする。


 「やっぱりね。これほどの権能、何かしらのデメリットがあると考えてはいたが……。お前、その場から動けないうえに魔術も使えないのか」


 ハニエルは否定も肯定もしない。もうアニの応答に反応する余裕もないのか。もしくは──」


 「はぁ、その程度か」


 アニは少しばかり落胆するような表情であった。


 その程度の権能だったのか、と。


 「君は私と似た力を持っているけど、所詮は似ている程度だったのか。というよりかは、圧倒的下位互換と言った方が良いかもね。君はエルフとしてもまだ若い。あと二百年、地位や権力、金銭を捨て権能の成長だけを目標に生きていれば私の足元までは来たのかもしれないけど──」


 影が一秒も足らずに地面一帯に広がる。


 しかし、それはハニエルの影ではない。アニマ・ムンディのモノであった。


 いいや、違う。


 影ではない。


 それはアニの存在。


 アニマ・ムンディそのものが世界に溶け込んでいる。


 空間にも侵食し、世界そのものがたちまち変わっていく。


 「何が……起こって?」


 「これが私の力であり、そして──」


 そこには、赫赫かくかくとした世界が広がっており、何かが不気味に揺らいでいる。


 それは無数の眼。


 無数の口。


 「うそ……だ、ろ」


 ハニエルの知っている世界は自分の足元に広がる己の影だけであった。


 「んじゃあ、ここから私の反撃のターン。耐えきれるかな?」


 無数の揺らめく何かがハニエルに襲い掛かる。


 最初は影の力で応戦していたモノのすぐに押し切られ、最終的には──


 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 絶望に溢れたその声にアニはただ、嗤っていた。

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