ダイモン 39
それはきっと正真正銘、最後に振り絞って出す力。
敵であるアイギパーンだけでも殺してやるという気持ち。
ギタブル・ヘティトは身体に力を入れる。それだけで体中の傷口から血が流れ出る。もうトドメを刺さなくても、出血多量で死んでしまうだろう。それでもギタブル・ヘティトは左鋏を動かし、アイギパーンに向けて斬りかかる。
もう胴体から離れ落ちそうだというのに、それは迷うことない行動であった。
人と神獣。種族どころか、生物的にも違う者同士。だが、戦う者──戦士という立場で見ればそれは敵であるアイギパーンの心に強く、そして深く突き刺さる姿であった。
だからこそ、アイギパーンはライフルを構える。
出血多量だなんて死因で終わらせはしない。敵として、自分の手でギタブル・ヘティトを殺す。
それが戦士としての敬いであると想って。
アイギパーンは狙いを定める。
それはギタブル・ヘティトの頭。
時間をかけて魂から魔力を生成し、よく練って弾丸に送る。それは充分以上の魔力量であり、確実に甲殻を撃ち抜き、脳天へと到達するであろう威力を出すには問題ないモノであった。
そうして時間をかけている中、自分の身長の何倍もあるギタブル・ヘティトの左鋏の刃が目の前まで襲い掛かってくる。
「こんなにギリギリだったのは久しぶりだったぜ、じゃあな!!」
トリガーを引き、発射する。
そして──
「くそッ、ギタブル・ヘティトがやられたのかよ!?」
額から汗を流し、何度も息切れをしながら驚いているのはハニエルであった。
神獣とも呼ばれている存在を召喚しただけではなく、長時間維持し続けたのだ。その疲労と集中力は計り知れないものだ。だがハニエルの持つ影の力は召喚する際は魔力を消費するものの、召喚後は維持に一切魔力がかからないという規格外の権能だ。
その気になれば、神獣レベルの化け物をもう一体、出すことも出来る。
それにギタブ・へティトの恐ろしさはまだ終わらない。
「クククッ!舐めやがって……!ここまで来たら絶対、ぶち殺してやる!」
そうして足元に広がる自身の影を四方八方に伸ばしていくその時──
「見つけたよ」
彼の前に現れたのは魔女が被っているようなとんがり帽子を被った少女。
それはこの世界の外からやってきた、異常存在。
「外界の者……!」
アニマ・ムンディであった。
「よっ、さっきぶりだね、少年」
彼女はまるで友達に会うかのように、ふらっと来て気軽に話しかけてくる。それは不気味なほどの満面の笑みで。
だがハニエルは知っている。
コイツは自分に殺しに来た死神であることを。
「結構君には期待してるんだよ?天s……いいや、この世界じゃあ『ダイモン』だっけ?まぁ、その力だったら私と良い勝負すると思うからさ」
アニは魂から魔力を生成、身に纏い戦闘体勢に入る。




