ダイモン 38
アイギパーンが一発目に放った弾丸はある程度、魔力量を込めれていたということもあり、それなりの威力も、速度もあった。だが、ギタブル・ヘティトが無茶苦茶に振り回している尾にその弾丸は当たってしまう。二発目も、尾を避けて良い所までは行ったのだが、それは左鋏の刃の部分に当たってしまい、砕けて散っていく。
「くそッ、無理だったか!」
それでも、慌てる必要はない。まだライフル内には弾丸があるし、無くなってもリロードすれば良い話だ。しかし、ここまで運はアイギパーンの味方をしてくれていた。ここでもまた、彼の知らない所でその豪運が発動していた。
なんと、一発目の尾に当たったあの弾丸。そのまま跳弾してなんと、着弾目標地点であった左鋏と胴体の隙間、まさに甲殻で覆われていない関節の位置に入り込んだのだ。
そして数秒後、ドォン!という爆発音と共に、周囲に血と肉が吹き飛ぶ。
「な、何で!?」
アイギパーンでさえも予測していなかったこの状況。どうして、どうやって、なぜ爆発したのかは分からない。ただ、大きなダメージを与えたという事実が目の前にあった。
更なる激痛でギタブル・ヘティトは声にならない叫びを上げ、動きが止まってしまう。
どうやらアイギパーンには豪運が味方しているが、ギタブル・ヘティトにも悪運があるようだ。ギリギリ肉で繋がっているようで、右鋏のように、胴体から取れて左鋏が落ちることはなかった。
これを機にアイギパーンは落ち着いて魔力を弾丸に送り、狙いを定める。また、ギタブル・ヘティトが動いていないからこそ、さらに射撃精度は上がるだろう。
彼自身も戸惑っているモノの、この追撃のチャンスを逃すわけにはいかない。
次の狙う位置はもう決まっている。
「そこだ!!」
魔力によって赤く輝きながら弾丸が向かっていく場所は、もちろん甲殻のない、関節の位置。それは毒針がある巨大な尾と胴体の間であった。そして見事、狙った箇所へと着弾したと思えば、次の瞬間には爆発しており、今度はちゃんと尾が胴体から離れていた。
「っし、これで終わりかな?」
くるり、とレバーを回して排莢を行いながら、アイギパーンはギタブル・ヘティトを見る。
そこには、自慢の右鋏と毒針の付いた尾を無くし、血まみれの巨大な蠍がいた。左鋏もかろうじて胴体と繋がっているだけで、今にも取れそうだ。もうその姿には神獣と呼ばれていた頃の面影はない。
死にかけの、巨大な蠍型の魔獣がいるだけであった。
ただ、その眼は未だに諦めなどの感情はなく、まだ戦い続ける意思がそこにあった。やはり、神獣と呼ばれていたのは肉体的強さだけではなく、その人と変わらない意思……精神的強さがあったからなのだろう。




