ダイモン 37
ギタブル・へティトは何が起こったのか、理解出来ていなかった。生まれて数えるぐらいしかない、死ぬほどの痛みで思考が出来ずにいた。
ただ、目の前には事実だけが広がっていた。
急に体が爆発したかと思えば自分の自慢の、あらゆるモノを切断する巨大な右鋏が、胴体から取れて地面に落ちていくという事実だけが、目の前にあった。鋏が地面とぶつかったその時、ドスンッ!とまるで隕石でも落ちてきたかのような音と衝撃が地面を伝ってくる。
「っし、決まったな!」
これこそ、アイギパーンの切り札。
小さな弾丸の中で、薬莢の中に発射用の火薬とは別に、上手く魔鉱石を加工して弾頭の中に火薬を仕込むことで着弾時に大きな爆発を起こす。
いわゆる炸裂弾だ。
制作段階であり、まだ爆発するか分からなかったが、上手く発動した。
「これなら、殺せるぞ!」
急いで排莢しながらアイギパーンはリロードを行う。次は全弾、炸裂弾だ。
そうしていると、ギタブル・へティトは大きく動き出す。
考えなしに動き回り、何処にアイギパーンが何処にいるかも分からない状態で残った左鋏をおもちゃの剣で遊ぶ子供のように、適当にただ力強くやたらめったらにぶん回す。毒針についた尾も同様に振り回していた。
もう痛みと、混乱と……そして怒りで思考が停止しているのだろう。
ただひたすら、アイギパーンを殺すという目的だけで動いている。
このまま腹の下で撃ち続けよう、そう思っていたが、暴れて動くギタブル・ヘティトの脚は襲い掛かる。この暴れ馬のような状態では踏み潰される可能性がある。魔獣とは言え、その格は神獣とも呼ばれる存在だ。ゆえに怒りに任せるような行動を取ってくると思っていなかったアイギパーンは少し焦りながら、腹から飛び出す。
やはり、怒りというのは大きく、凄まじい感情なのか。狙いこそ大雑把でアイギパーンに当たる気配はないものの、暴れ攻撃の威力も速度もこれまでとは段違いだ。
だが、巨大な鋏に尾……狙っていなくても充分、攻撃に巻き込まれる可能性がある。
「ッ、あぶね!!!」
頭スレスレの所で尾は鞭のように通り過ぎていく。
(ちゃんと…狙って、撃ちたいが………ちィッ!ヤケクソに動きやがって!!!)
こうなったら仕方ない、走りながら、魔力を込める。のだが、やはり魔力練度に射撃精度、かなり落ちてしまう。だが、何もしないわけにもいかない。
トリガーに指をかけ、彼は狙うヶ所は──
(残った左鋏!!)
ダァン!ダァン!と二発連続で発射する。もちろん、最初から当てる気で撃っている。が、気持ちだけで当たるのならば苦労はしない。数撃てば当たる戦法だ。
そして撃ってすぐに襲い掛かってくる尾の攻撃を避けながら、弾丸の着弾位置を確認する。




