ダイモン 30
弾丸が効いていない。このまま撃ち続けても倒すことは出来ない所か、動きを止めることも出来ない。拳銃の射程範囲内で戦おうと思っていたが、ハニエルの分身が止まらない以上、近距離戦は確定だ。右手の拳銃はそのままに、左手に持つもう一丁の拳銃を腰のホルダーに戻し、ナイフを取り出す。
そして、とうとうハニエルの分身はシリウスの目の前へと到達していた。
分身は杖に魔力を送ると、そのまま強く振り下ろす。
それを軽く避けて見せると、カウンターとしてナイフを首に突き刺す。が、やはり痛覚はないらしい。分身はすぐさま杖でシリウスを薙ぎ払おうとする。
ナイフを抜く暇はない。一旦、首に刺したままナイフから手を離し、杖を避けると至近距離から弾丸を顔に二発、撃ち込む。一発は右頬に、二発目は右目へと。距離による威力減衰は少ないおかげか、今度は弾丸が貫通していき、血が溢れ出す。
またもや杖を払ってシリウスに攻撃を仕掛けるのだが、死角になっている右目へと常に移動することで杖の攻撃を簡単に躱していく。また、杖の攻撃の最中、隙を狙って首のナイフに蹴りを入れる。よりナイフは肉と皮膚を裂いて突き進む。ナイフが貫通したようだ、反対側からナイフの鋭い先が顔を出している。
「ッ!」
分身は声にならない叫びを上げると、魔法陣を空中に展開し、激しい旋風を生み出す。
その旋風に巻き込まれ、シリウスは数十メートル後方へと吹っ飛ばされる。が、それだけではなかったようだ。シリウスの体中に擦り傷があり、そこから肌を伝って地面に濃く紅い血が落ちていく。シリウスはこの現象をおぼろげながらに知っていた。このような旋風の中心に出来る真空または非常な低圧により皮膚や肉が裂かれる事があると。
何故、知っているのだろうか?確か、そのような現象を起こすかまいたちという魔物がいるというのを何処かで聞いたことがあるが……今はそんな事はどうでも良い。
勝つために。ただ今、目の前で起こった事を頭の中で整理するだけだ。
(分身は、どうやら……意思を持たない)
あんなに荒くて、他人を見下すような口調、態度をしてくるハニエルがずっと黙っているはずがない。しかし、あの影から生まれた分身は何も話すことはなく、また挑発する事も無かった。
(アレはあくまで……動く人形。命令されない…限り、複雑な行動はしない……と思っていたけど、魔術を使って、きたな)
それでも、あれは中級レベルの術。
無詠唱ではあったが、魔法陣は展開していた。
これらの事から察するに、中級レベルの術までならば発動できるようだ。それ以上、脳に負担のかかる上級魔術を発動できるとは考えられない。また、この行動が全てブラフで、実は絶大級まで使えますよ、なんて事もないだろう。
何度でも言うが、複雑な行動を命令されない限り、出来ないのだ。
ブラフなどという難しい事を出来るはずがない。




