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ダイモン 28

 「ッ!!まじかよ……!」


 アイギパーンは向ってくる毒針の対処を思考する。


 避ける?いいや、不可能だ。空中にいる中、腕を振り回し、腰を捻ることである程度、動くことは出来る。だが、あの大きな針を避け切れるほど大きく移動は出来ない。


 では受け止める?これもまた無理は話だ。魔力をナイフに纏わせても、素体となるナイフがそれほど良くない。そもそも、魔力による押し合いになれば、アイギパーンが負けるのは必定だ。


 どうする?


 どうすれば対処出来る?


 あと何をすれば──


 「いいや……」


 ここまで…………なのかもしれない。


 俺は充分にやった。


 そもそも、俺が傭兵やってるのは、それしか道がなかったからだ。


 俺の出身国は種族による内戦ばっかりで、多くを殺してきた。それは子供の頃からだ。生きるために戦った。だがその内戦も終わり、いがみ合い、恨みながらも国として前に進むとなった時──


 俺は何をすれば良いか、分からなかった。


 内戦は終わった。だから何なのだ?


 俺は戦う事だけを叩き込まれた。文字も読めない、まともな仕事というのが分からない。戦う、殺し合うという道以外を俺は知らない。


 だから、傭兵になった。


 あちこちで戦って、それで傭兵団をまとめ上げて、それから──


 (イかれている人生ではあったが……まぁ…………)


 大人になり、ある程度常識を知ったからこそ言える。


 こんな不遇な出生、育ちで良くここまで来れた、と。


 (満足だ……)


 そうして諦めてしまった時であった。


 「ししょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉう!!!」


 その少女の叫び声と共に、ドン、と強い衝撃がアイギパーンの体に押しかかる。


 それにより、何とか尾の毒針を避ける事に成功すると、しかし重力に逆らう事が出来ず、態勢の崩れた状態で自分に突っ込んできた誰かと一緒に地面へと落ちていく。


 「ッ!」


 硬い地面に叩きつけられ、何度かバウンドしながらゴロゴロと転がってようやく止まる事が出来た。


 「はぁ、はぁ……だいじょう、ぶ?師匠」


 そこに居たのは、自分の弟子。小さな背丈に、エルフ族の特徴である長い耳。


 シリウスであった。


 碌に教育も受けられず、文字の読み書きも出来ない。ただ戦うことしか出来なかった俺についてきた、馬鹿で愚かで……でも自分を認めてくれるような、そんな気にさせてくれる。師匠想いの──


 「馬鹿か?この程度、大丈夫に決まってるだろ?ったく、無茶をするぜ」


 「師匠も……人のこと、言えない」


 「だな、馬鹿者師弟同士。だからこそ、この馬鹿でかい蠍をぶっ殺して、ここから逃げるぞ」


 「……了解」


 シリウスは二丁の拳銃を取り出し、シリンダーを振って開けて弾丸数を確認する。六発込められたシリンダーが二つ。合計十二個の弾丸。再びシリンダーを戻し、ハンマーを上げていつでも発射可能で構える彼女であった。

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