ダイモン 27
ギタブル・へティトはその巨大な鋏を振り回し、周囲の建物をまるで紙のようにスパスパと切断していく。一般人はその鋏を避けることは出来ず、また巻き込まれなかったとしても切断されて落ちてくる建物の瓦礫に押しつぶされて死んでいく。
その最中、一つの影があった。それはその鋏を見切り、瓦礫の落ちる中を無駄ない動きで避けていく。その影はまさにアイギパーンであった。
ギタブル・へティトはまるでアリのように飛び回るアイギパーンをしっかり捉え、鋏で何度も襲いかかる。しかし、さすがは百戦錬磨、あらゆる戦争に闘いを生き残ってきた傭兵の一人。さすがに受け止めたり、反撃したりは不可能だが、攻撃は確実に避けていく。
「ヒュッ、危ねェ!!」
咄嗟にしゃがみ込むと、頭上を鋏が通り過ぎる。それは髪の毛が掠るほど至近距離で、避けた後に変な汗がだらだらと流れ出る。
だが、攻撃してくるのはギタブル・へティトだけではない。ギュンッ!と凄まじい速度でアイギパーンとの距離を詰め、魔術の杖で殴りかかってくるのはハニエルの分身であった。
下に向けていた杖を魔力を込めながらアイギパーンの顎めがけて思いっきり上へと振り上げる。それに対し、アイギパーンは懐からナイフを取り出し、杖を真正面から受け止める。
ガチガチ、と鍔迫り合いのような形になり、ナイフと杖越しでお互い睨み合う。
その間でもギタブル・へティトは次の攻撃に向けて動き出していた。鋏だけでは攻撃を当てられないと判断したギタブル・へティトは毒の針がある長い尾をまるで鞭のようにしならせながらアイギパーンへと放つ。
鍔迫り合いになり、杖を押し切る事に意識している影の腹部に向かって鋭い蹴りを入れる。やはり、意識していない攻撃をされると、どんな強者でも態勢を崩し、思考が止まるようだ。よろよろと体をよろめかせ、態勢を保つことができずにその場に崩れる。
このまま追撃して影の分身を潰しておきたいという気持ちはある。だが、もうすぐそこに尾を向ってきている。思考し、何かするような暇はない。
「くそッ!!!」
近くの建物の壁を蹴り上げ、自分の身長の数倍の高さまで飛び上がることでその尾を避け切る。蹴り上げに使った建物は尾によっていとも簡単に粉々に崩壊していく。一秒でも遅れていたら、あの建物のように自分も肉塊へとなっていただろう。
だが、尾の攻撃はそれで終わらない。
尾節を曲げ、方向を転換すると再びアイギパーンへと襲いかかる。しかし、先ほどは鞭のように使い、振り払うような攻撃であった。が、今回は毒針を向けて、明らかに刺しにきている。
巨体というのに、一連の行動は二秒にも満たなかった。
まだアイギパーンは飛び上がったまま、まだ空中にいる。重力で引っ張られて地面へ落下している最中ではあるが、あの針は地面に落ちる前に来てしまうだろう。




