刃の厄災 17
二人は意識を切り替える。
まだ……戦いは終わっていない。
トーゼツはもう死んだ。その事実は変わらない。そして、ここで死んでいられない。ここでミトラとアナーヒターが死ねば、あの世でトーゼツに何と言われることか。
ミトラの中で、またもやあの言葉が響く。
「そうだ…そうだよな……トーゼツ。ここで諦めきれないよな!」
彼女もまた、剣を持ち直し、構える。
アナーヒターも杖を持ち、距離を取り始める。
「アナーヒター……サポート徹してくれるか?」
本来、魔術師というのはサポート役が多い。
味方にバフをかけるのはもちろん、攻撃も遠距離系も多く、治癒魔術もある程度、離れていても発動させることは可能である。
だが、これは本来の話。
術聖という、魔術師の極致にまで至った彼女であれば、単独で前線を張ることぐらい容易いことだろう。さらに、戦闘経験に、戦う者もとい、戦士としての格もアナーヒターが上だろう。
それに……彼女の相棒であるトーゼツが死ぬキッカケを生んだのは―
「今はそんなこと、気にしてられないでしょ?それに、トーゼツが庇おうとした結果、アイツが上手く壁になってアナタは生き残ったの。アイツの気持ちを踏みにじるような事を私はしないわ」
そういって、杖に魔力を送り始め、魔法陣を展開。トーゼツにもしたように、ミトラに対していくつもの魔術を発動し、バフをかけていく。
背中に翼でも生えたかのような軽さ、どんな速度でも捉えきれるほどの視力、機械にように素早く精密な動作を可能にしてしまえるほどの思考。
(これが、術聖アナーヒターの魔術!!)
やはり、自分よりも戦士として優れているのは彼女であるというのをますます思い知らされる。
だからこそ、サポートに回ってくれることに感謝しなければ。
「準備は良いようだな。では、行くぞ!!」
刃の厄災は魔力を剣に送り、そして脚に力を入れ、一気に地面を駆け抜ける。
身体が人間サイズにまで縮んだことによるものなのか。先ほどのあの巨体の状態よりも移動速度は速く、またその動きは軽々しいものであった。
だが、こっちも多くのバフをかけて貰うことでもっと良い動きを可能にしている。厄災の動きも完全に捉えきれている。
(何も問題はない!)
ミトラは突きの構えを取る。
(カウンター狙うというところか、良いだろう!)
ミトラの思考を読み取ったが、その動きは変わらない。そのまま駆け抜け、ミトラへと接近すると刃の厄災はまず、右手に持つ剣を速度を乗せて勢いよく振り下ろす。
それを素早く右に避けて躱し、すぐさま剣を突いて攻撃しようとする。しかし―
「ッ!」
今度は左に持っていた剣で勢いよく横に薙ぎ払う。
それを姿勢を低くし、頭のスレスレのところで躱して見せるのだが、避けることを意識したため、カウンターの構えが崩れてしまい、反撃するタイミングを失ってしまう。




