ダイモン 24
ハニエルはニタニタと嫌な笑顔を見せながら、アイギパーンを見つめる。それはまるで、生きのいい獲物を見つけた獣のような雰囲気であった。
「俺の名前を知っているとは、ようやく俺も大物の仲間入りかな?ったく、あまり派手に動くなとか言ってたくせに、ローリィの方があんなデカい爆発起こすんだからな。まぁ、セレシアは仙国との戦争準備は既に終わってるようだし、俺が色々と考えることじゃないんだろうな。それよりも……外界の者だとか、トーゼツ・サンキライのようなゲテモノばっかりだったが、ようやく本命に出会えたぜ」
ハニエルの足元に伸びる影が、まるで生きているかのようにうねり始めたかと思えば、その泥のような影の海から数匹のカニバル・ワームが飛び出す。
「魔術……ってわけじゃなさそうだな?」
魔術師ではないモノの、戦闘経験の豊富なアイギパーンはあらゆる敵と戦ってきた。その中にはもちろん、魔術師もたくさんいたわけなのだが。それゆえに知識はなくても、その戦闘経験と記憶によってある程度、魔術というのがどういうモノなのか、把握している。
しかし、ハニエルのこれは明らかに魔術ではない。どちらかというと、固有技能に酷似しているが、それとも違う……異質なナニカ。
「これが俺のダイモンの権能だ。影を媒介に使い魔を召喚する。そのほかにも魔具を生み出すことだって出来るし、こんな芸当も出来るんだぜ」
そうして影の中からぬわり、と何者かが這い上がって来たかと思えば、そこにはもう一人のハニエルが立っていた。寸分一つ変わらず、全てが全く同じ形をしたハニエルであった。
「……人類を辞めてるぞ」
「ダイモンになった時点で人類の枠じゃあ収まり切れない存在になってるのは分かるだろう?お前らとは圧倒的に違う化け物なんだよ」
と言っているモノの、内心アイギパーンの中では強く引っかかりを覚えていた。
確かに化け物じみた能力だ。しかし、どんな力にも上限がある。魔術にも、固有技能にも、神々の力にだって限界があった。だからこそ、調和神アフラは消滅したのだ。
であれば──
(あの影の力にも限界がある。それにルールもありそうだな)
アイギパーンは銃を構える。
まだ、やれることはいっぱいある。
可能性がそこにある限り、諦めることは絶対にしない。
「実力差が分かってるっていうのに、戦う気かい?」
「何もせずにおとなしく捕まるほど行儀の良いわけではないのでね」
「そうか、だったら死ね!!」
そうして一気にカニバル・ワームがアイギパーンに向かって大きく口を開くながら突進する。その口の中には恐ろしく、トゲトゲしい歯が無数に並んでいる。
アイギパーンはそれに対し、慌てることなく冷静に拳銃で狙いを定め、ダンッ!ダンダンッ!と三連続、弾丸を放つ。




