ダイモン 23
それは、巨大な爆発であった。
ローリィは街中、一般人もいるというのに絶大級の爆破系の魔術を発動させたのだ。
この平和だった都市部に絶叫と、恐怖が巻き上がる。多くの人たちが逃げまどい、その人混みに押しつぶされて怪我をする者たちもいた。
また、爆発に巻き込まれてもなお、運よく生き残った者たちも居た。が、服は燃え尽き、体中は焼け焦げていた。それでもなお生きようと地面を歩き続ける。だが、これほどの火傷……体を動かすたびに凄まじい激痛が奔り抜ける。そのたびに口を開き、叫んでいるのだが声帯も焼けているため、声になることはない。
都市そのものもまた大きな被害を受けていた。綺麗に石畳みで舗装された地面は溶け、多くの建物が爆発の影響で破壊されている。
未だに強い熱気が周囲に漂っており、人では近寄りがたい空間になっていた。
その中を歩く一つの影。
爆発させた張本人であるチャミュエル・ローリィであった。
「……アイギパーンらしき死体は無いですね。あの状況から生き残りましたか。やはり、人とは言え、伝説の傭兵ですか。しかし無傷とはいかないでしょう」
そうしてチャミュエル・ローリィは歩き出す、逃げた獲物を追いかけるために。
「はぁ、はぁ……馬鹿かよ!!こんな都市部内で絶大魔術とか!!」
アイギパーンは激しく息切れをしながら、逃げ込んだ路地裏にいた。
ローリィの予測通り、彼は無傷ではなかった。体のあちこちが焼け焦げており、また爆発の中心地にいたこともあり、鼓膜が破裂し、網膜も焼けて何も見えない。
しかし、問題はない。
彼は銃士であり、魔術師ではない。使えても低級レベルの治癒魔術だ。だからこそ、いつも携行しているものがある。それは上級レベルの治癒魔術が描かれている羊皮紙である。これさえあれば、あとは魔力を流し込むだけで勝手に発動してくれる。
アイギパーンはその羊皮紙を懐から取り出すと、見えない視界の中頑張って地面に広げる。その動きはよろよろとしていて、不安定であった。やはり聴力、視力というのは思った以上に人間は頼りにして生活していると実感できる。
そのように考えながらも、なんとか準備の終わったアイギパーンは魔法陣に描かれた羊皮紙の上に立つ。そして魔力を流し込むと緑色の温かい光が彼の体を包み込む。そして耳、眼を癒し、火傷を負った皮膚も再生していく。
そうして完全に元に戻ったアイギパーンはまた羊皮紙を折りたたみ、懐に戻す。
「さて、回復は終わった。さっさとここから──」
立ち去ろうとしたその時であった。
「よォ、アンタがアイギパーンか?」
そこに居たのはエルフの少年。
それが何者なのか、アイギパーンは知っていた。
「シュトロフェリー・ハニエル……!」
メイガス・ユニオンの主力メンバーであり、ダイモンとして改造されたエルフの一人。ローリィ程とはいかないものの、彼女に引けを取らない実力者だ。




