ダイモン 22
そこは仙国の首都、コーゲンミョウラクの西部。
西部は他の場所に比べて商業施設が多く、いろんな店が並んでいた。一般人向けである実用品を売っている店から貴族や豪族、権力者が好む宝石や芸術品と言ったモノを扱う店まであった。さらに露店もあり、そこでは新鮮な果物や野菜、手作りのアクセサリーを売っている。
それほどまでに多種多様な人、モノが移動しているこの場所で、冒険者向けだろうか、露店の中に剣や槍などの武器を売っている者がいた。
店主はサングラスをかけた男で、今日の売上を確認している。
「うーん、ぼちぼちだなァ。まぁ本業が武器職人ってわけじゃないし、メイガス・ユニオンの追手がいつ来るかも分からん。もうシリウスを呼んでここからおさらば──」
とぶつぶつ呟いているところに
「すいません、武器を見て良いですか?」
と話しかけてくる人影があった。声からして女性のようだ。
男はすぐに売上のお金を人目のつかない場所に置き、客であろう女性の方へと顔を向ける。
「ええ、もちろん──」
と言った時、男の表情が硬まる。
「チャミュエル・ローリィ……!」
「おや、私の名前をご存じでしたか」
目の前にいるエルフの女は、あからさまな作り笑顔を男に向ける。そしてテーブルの上に商品として置かれている武器を見ながら淡々と話し始める。
「仙国は世界最大の人口を持つ巨大国家。だからこそ、コソコソ隠れるよりも、人混みの中に隠れる方が得策。いわゆる葉を隠すなら森の中ってやつですね。良い案ではあると思います。が、メイガス・ユニオンの情報網を舐めないで欲しいですね」
「ははっ、なんのことやら──」
「アイギパーン、それ以上誤魔化しても無駄ですよ」
惚けようとしているアイギパーンに向けて、ローリィが魔術の杖を問答無用に構える。
「ここで木の葉を燃やしてしまっても良いのですよ、森ごと……つまり街まるごと。しかし、私も無駄な殺生はしたくありませんし、仮想敵国である仙国内でメイガス・ユニオンメンバーである私が問題を起こすと戦争になりかねません。少し人気のない場所で話しましょうか」
周囲の露店では多くの人たちが商売をして、それを買うお客さんがいる。大通りの方でも色んな店が並び、富豪とも呼ばれるような者たちも行き交いしている。それがコーゲンミョウラクの西部での日常。それに対し、この二人の空間だけが殺意と緊張感が奔っていた。まるで異世界にでも迷い込んでしまったかのような雰囲気だ。
数秒間、この世界を沈黙が支配する。
そして──
「いいや、まだだ!」
アイギパーンは確信持っていた拳銃を取り出し、撃とうとする。
しかし、先に杖を構えていたローリィの方が術の展開は速かった。
「絶大魔術!」
「ッ──」
アイギパーンは強く身構えると、次の瞬間には視界が真っ白になっており、耳も鼓膜が破れたようで何も聞こえなくなる。




