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ダイモン 19

 エルフの少年は「ちッ!」と舌打ちをすると、その影を再び伸ばす。何か仕掛けてくると思ったトーゼツは剣を構え直すのだが、攻撃してくることはなく、そのまま傷ついた獅子を影の中へと入れる。


 「くそッ、俺の持つ使い魔の中でも良い戦力だったんだがな。こうなれば回復させるまで使い物にならない。ったく、本当、面倒な事をしてくれる」


 エルフの少年は悪態をつきながら、トーゼツに憎しみと怒りを込めた目を向ける。


 獅子を下げたからと言って、エルフの少年がこのまま退いてくれるとは思えない。トーゼツは深呼吸をしながら、体を落ち着かせて剣を構え続ける。


 「冷静だな。お前、そこらへんの雑魚とは違うな。だが、事前に調査していた情報じゃあテメェのような冒険者がコーゲンミョウラクに居るとは聞いていなかった。何者だ?」


 「……俺はトーゼツ・サンキライだ」


 エルフの少年は何処か納得のいったような、しかし事実かどうかと怪しむような表情へと変わる。


 「へぇ、あの最強の冒険者、アナト・サンキライの弟か〜、それでこんなに手強いわけだ。だが、ここにくる前に事前調査したんだぜ?それほどの人物、俺たちメイガス・ユニオンの情報網から抜けるとは思えないんだがなァ」


 「……やっぱりか」


 確証は無かった。だが、こいつは今、ハッキリと述べた、メイガス・ユニオン、と。


 であれば──


 「ローリィと一緒にアイギパーンの始末に来たって事か」


 「あァ?テメェ、どうしてローリィの事を知っている?いいや、それは良い。こうなったらお前を生かしたまま捕まえてやる!」


 「おいおい、生かすっていうのは、殺すことよりも難しんだぜ?」


 「それは死ぬ覚悟のある奴が言うことだぜ?テメェ、ここで死ぬつもりないだろ、馬鹿がッ!」


 エルフの少年の足元に伸びている影から一気に何かが飛び出す。それは獅子のように大きく無く、また一匹だけではなく複数の形であった。


 「数で押しつぶす!カニバル・ワーム!!」


 それはまるで蛇のような動きで、しかしその体は爬虫類のような鱗ではない。どちらかというとミミズのような体を持っており、口も丸呑みする蛇とは違い、ギザギザの歯が生え揃っていることから食い千切る形で獲物を捕食する生物だと推測できる。


 というより、世界中を旅してきたトーゼツはこの魔物を見た事があった。


 カニバル・ワーム。


 肉食のミミズで、泥沼などに生息している。肉食で、どんな生き物もその鋭い歯で食い千切る。冒険者や旅人なども食い殺されるという事件も少なくは無い凶悪な魔物である。


 ミミズという事もあり、うねうねと蛇とは違った独特な動き、その凶悪な歯、これらから一体、相手するだけでも厄介な存在。それがなんと何十匹も影から出てきたのだ。


 「ッ、くそ!」


 後方へ一気に下がりながら、そのカニバル・ワームの突撃を素早く避けていく。

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