ダイモン 18
しかし、トーゼツの選択肢は一つしかない。
この獅子を殺し、奥にいるエルフの少年を倒す。
可能であれば、戦闘を回避したい。アナーヒターと合流して傷を回復させ、共闘で倒す。これが理想の形ではある。だが、少年が影から魔物を召喚出来る以上、多対一になるのは確定。逃がしてくれるとは思えない。だからこそ、戦うしか無いのだ。
(だが、こちらから無闇に動くのは良く無い。さっきの猫と一緒、カウンターで仕留める!)
トーゼツは獅子を深く観察する。
獅子もこちらを強く警戒している。先ほどの突進を避けたのを見て、獅子もトーゼツを強者と看做したのかもしれない。安易に飛び込んでくる事はないようだ。
エルフの少年は……あちらもまた動かない。それとも──
(いいや、このままで良い。俺があれこれ考えて動きが鈍ってしまうよりも、相手の動きに合わせる。それだけに集中すれば良い!)
トーゼツの額に汗が流れる。それが嫌に火照った体を冷やしていく。
まだ、獅子は動かない。
そして数秒後──
「グるァ!!」と強く、大きな唸りながらその大きな手を広げ、凶悪なほど鋭い爪を立ててトーゼツへと向かってくる。無論、爪には魔力が帯びており、トーゼツが体に纏う魔力量だけではこれを防ぐことは出来ない。せめて防御系上級魔術が発動出来れば受け止めることも出来るかもしれない。だが、発動させるために魔法陣を展開する時間も、詠唱する余裕もない。
ここは剣で受け流すしかない。
ガキッ!と激しく硬いモノ同士がぶつかる音が響く。トーゼツの剣を鉄、しかも神代の遺物だ。それに対し、相手は爪。魔獣化した獅子とは言え、それはただのタンパク質の一種。魔力を帯びているとは言え、これほどの強度を誇っているのは異常である。
トーゼツは受け止めてからすぐに力の流れる方向を制御し、爪を流そうとする。しかし、その圧倒的なパワーを受け流すのも簡単なことではない。
「ッ!」
いつも以上に神経をすり減らし、油断すれば一瞬で終わるという緊張感でトーゼツの表情は苦しいモノであった。それでも彼は──
「ッ、おおおおおおッ!!」
なんとかその爪を受け流し、そしてすかさず刃を返し、カウンターを入れる。とにかくガムシャラで、何処かに当たれば良いという感覚だった。
グチャ、と肉を切る感覚が剣を通してトーゼツの手へと伝わってくる。どうやら無事に、獅子の何処かに当たったようだ。獅子は叫び、すぐさま飛び退いて距離を取り始める。
「はぁ、はぁ、」と深く息切れをしながら、落ち着いて獅子の様子を見る。
本当に意識せず、ただ当たれば良いの感覚。しかし、当たった箇所を見れば運はトーゼツの方の味方をしてくれているようだ。なんと、獅子の首に深い傷と、ぼたぼたとありえない量の血が噴水のように溢れ出ていた。




