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ダイモン 17

 トーゼツはすぐさま体の治癒を行い始める。


 「下級魔術〈ロウ・ヒール〉」


 詠唱と共に魔法陣がトーゼツの体中に展開されて、傷を癒していく。だがそれは完全な治癒ではなく、止血程度のモノであった。痛みが退くことはないし、身体がボロボロである事には変わりない。だが、何もしないよりはマシだろう。


 「血は止まったし、これぐらい…だったら、動いても大丈夫かな」


 苦痛の表情ではあるが、その苦しみに耐えながらもトーゼツは立ち上がり、その場から去ろうとする。


 (魔獣化した猫はとても気になるが今の俺じゃあ分かる事はない。ここはアナーヒターと合流しないと)


 術聖である彼女であれば、トーゼツに肉体を完全治癒することが出来るだろうし、この魔獣化した猫の正体も何か分かるかもしれない。


 そう思っていると──


 「テメェか、俺の使い魔をぶち殺したのは──」


 コツコツ、と路地裏に足音を響かせてトーゼツに近づくのは黒い髪のエルフ。見た目は自分と同じぐらいの年齢のようだ。しかし、長命のエルフであるため絶対トーゼツよりも二十年、三十年は歳が上だろう。


 「ったく、シリウス共か、アイギパーンが引っかかったと思えば何処の誰かも分からないガキかよ。ちっ、そのまま使い魔に殺されれば良いものを」


 エルフの少年の手に握られているのは一本の杖それは剣のように両刃があるのだが、それはあくまでデザインのようだ。刃の部分が短く、持ち手の方が圧倒的に長い。更に持ち手から茨のようなツタが伸び、刃にまとわりついる。そしてツタのあちこちから金色の薔薇が咲いている。


 「時たま変に強い奴がいるから困るんだよなァ、任務の邪魔になるし、ラクに出世が出来なくなる原因になるしなァ!!」


 少年の影が異様に大きく伸び始め、そこから一匹の獣が飛び出す。それは先ほどの猫とは比べ物にならない大きさ……巨大な体、巨大な爪、巨大な牙、まさに獅子のようであった。


 それは傷だらけのトーゼツに向けて大きく口を開き、問答無用で襲いかかる。


 「くッ……!」


 体をよろめかせながらも必死に獅子の突進を避ける。路地の壁にぶつかった獅子は、しかし怯むことはなく、逆にその牙で壁を粉々に砕く。


 「マジかよ……!」


 あの獅子の牙には一切、魔力を感じなかった。つまり、魔力なしの攻撃であれほどのパワーを持っているということになる。もしも、本気で、魔力を帯びた牙で攻撃してきたのならば──


 (一発でも攻撃を喰らうと終わりだな)


 獅子は態勢を立て直しながら、グルルルと低く唸り、トーゼツを睨む。


 トーゼツはそれに対し、一切の恐怖を見せることなく、剣を構える。この狭い路地だと避ける場所も無く、攻撃を受けるしかない。


 だが、


 (さて、どうするか……)


 傷は防いだとは言え、動けば再び出血を始めるだろう。死ぬ事は無いかもしれないが、出血しすぎると思考は鈍るし、動きは遅くなる。そうなれば、この獅子に食い殺されて終わりだ。

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