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ダイモン 16

 それは一瞬だった。


 その魔獣化した猫は鋭く爪を伸ばし、魔力を帯びさせる。そして、高く飛び上がると次に路地裏の壁へと着地し、またその壁を蹴り上げる。そして向かい側の壁に到着すると今度は地面に降り立ち、また飛び上がる。それを何度も繰り返す。どうやらトーゼツを翻弄しているつもりのようだ。だが、トーゼツ五感を用いて完全に猫の動きを読んでいた。


 (後ろ……右斜……次は足元……!)


 まだ攻撃は来ない。


 まだ、来ない。


 まだ、だ。


 …………ッ!


 トーゼツは一歩、足を踏み込ませると猫の動きに合わせるように勢いよく剣を下から上へと斬り上げる。そして、気づけば猫は胴体から真っ二つになっており、そのまま内臓を散らしながら地面に落ちる。


 「良し、何とか倒したけど……なんでこんな所に魔獣が?」


 獣が何かしらの要因で魔獣化することは珍しいが、無い話ではない。例えば突然変異に、厄災の狂気の影響、龍脈や地脈と言った魔術地理的原因によって引き起こされることもしばしばある。だが、ここは仙国の首都、コーゲンミョウラク。そのように魔獣化するような要因は無いし、近くに魔物が生息するような森や山はない。


 一体、どうしてこんな所に?


 いくら考えても解決しない疑問がトーゼツの頭の中で膨らんでいく。がその最中、二つに引き裂かれた猫の死骸がどんどん黒く染まっていく。それは腐っているというよりも、姿、形が闇に戻っていく──まるで影に溶け込んでいくようなモノであった。


 「……?」


 どうしてこのように変化しているんだ?魔獣化したことで肉体の崩壊が速く進んでいるのか?いいや、魔獣であろうと人であろうと、死体の崩壊、腐敗は微生物によって発生する。であれば、この変化は魔獣化した影響ではない。


 あまり見たくはないが、何が起こっているのか確認するために臓物を散らばせる猫の死体へと顔を近づけ、間近で確認しようとする。その瞬間──


 「ッ!」


 トーゼツ自身も何が起こったのか、理解出来なかった。ただ分かっているのは突然、自分の体が串刺しになっていることだけであった。それは影のように黒く、巨大な針。それが何本もトーゼツの体を貫通している。


 針が何処から伸びているのか、トーゼツは冷静に確認する。それは猫の死骸からであった。というか、それはもう猫の形を留めておらず、まるで黒い液体のようになって地面に溜まっている。そして、その液状化した死体からまるで植物のように針が生えて、トーゼツへと伸びてきているのだ。


 喉の奥底から熱い何か登ってくる。そして、耐えきれなくなった口は、それを外へ一気に吐き出す。


 「ごふっ、あァ」


 それは赤くて、熱くて、大事なモノ。


 生々しい匂いと鉄の味が広がる。


 「な、にが……くそぉ!!!」


 ずぶずぶ、と無理やり針を体から引き抜く。しかし、引き抜こうとするたびに傷穴から血があふれ出す。痛みも同時に襲い掛かる。


 しかし、トーゼツは止まらない。


 歯を食い縛り、脚に力を入れ、心を落ち着かせると一気に針を引き抜く。

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