ダイモン 15
トーゼツは一人で路地裏を歩いていた。
そこはとても入り組んでおり、昼間というの暗い細い道であった。
アイギパーンは雇われ傭兵。金さえ払えば誰からでも、どんな任務でも受ける。そういう性格上、冒険者ギルドや、メイガス・ユニオンだけではなく、世界中のいろんな国から指名手配を受けている者だ。莫大な賞金をかけられている首である以上、冒険者から見れば歩くお金でもある。
きっと隠れているとしたら、このような一目につかない場所だ。ということでトーゼツは居るだけで気分が下がりそうな路地を歩いているのだが──
「やっぱ居なさそうだな。っていうか、人影すら見えないし、もっと別の場所にいるのかな?」
一目のつかない場所などたくさんある。空き家に下水道、コーゲンミョウラクの郊外……。もしかしたら、もうコーゲンミョウラクから出ているかもしれない。しかし、トーゼツよりもずっと前から捜索していたローリィがこの都市内にいる時点でまだ、コーゲンミョウラクに居るのは確定だと思って良いだろう。
「はぁ……ここは一度、アイギパーンを後回しにして厄災探しの方を──」
と思っていたその時であった。
トーゼツの横を素早く何かがすり抜けていく。
「っ!?」
それは目の端でしか捉えきれなかったが、確かに魔力を帯びていた。街に迷い込んだ魔物、という可能性もある。放置しておくわけにはいかない。
そう思ったトーゼツはすぐさま振り返り、通り過ぎたモノの正体を見ようとする。
それは一匹の猫。しかし、明らかにただの猫ではない。魔獣化してしまっている。猫はトーゼツに一切の興味がないようで、全く動じることなく去っていく。
「待て!」
トーゼツは持っていた槍を魔獣猫に向けて迷いなく、強く投げる。それはまさに弾丸のような速さであった。しかし、猫はその小さな体と素早い動きを利用し、咄嗟に避ける。だが、無傷では済まなかったようだ。それは腹部をかすり、血を流し出す。
「ッシャァァァァァァァ!!』
それは猫科らしく、しかし明らかに獰猛な獣のような声をあげてトーゼツを睨む。どうやらトーゼツを敵とみなしたようだ。それは明らかな敵意と殺意を抱いた眼光であった。
どれだけ元が猫と言えども今は魔獣。きっと戦いに慣れない市民であれば、その鳴き声と眼で恐怖をして体が動かなくなってしまうだろう。だが、トーゼツは恐怖することも、焦ることもなく落ち着いて新たに武器、剣を取り出す。
(あんな小さい獣を相手に剣を振り回しても勝てないだろうな。ここはカウンターを狙っていく!)
そうしてトーゼツは剣を構えながら、猫の挙動に注意する。呼吸から目の動き、体の重心、あらゆる点から次はどのように猫が動くのかと予測していく。きっと、トーゼツの考えている事を猫は分かっているのだろう。獣とはいえその知能と本能は決して侮れない。




