ダイモン 14
エルフの少年は落ち着いて呼吸をして、すぐさま崩れた戦闘態勢を整え、アニとシリウスを見る。彼女達は一切、動いておらず、追撃してくる様子は無さそうだ。
(何故だ?俺を殺すのには絶好のチャンスだと思うが……ちッ、やっぱり俺は遊び相手か。舐めやがって!!だが、あのアニって奴の実力が俺以上なのは確かだ)
ここはローリィを呼んで──いいや。
「とにかく一旦、離脱だな。ちッ」
何度もエルフの少年は舌打ちしながら、懐から一枚の羊皮紙を取り出す。そこには魔法陣が描かれており、どうやら転移系の魔術のようだ。そこに魔力を流し込み、魔法陣を発動させる。
逃すわけにはいかない。そう思い、シリウスは銃口をエルフの少年に向けるが、それをアニは制止する。何故、止めるのか。そう思いながらもアニは助けてくれた恩人だ。その言う事を無視出来ない。シリウスは銃を下げる。
どんどんエルフの少年の体は光を纏い始め、その姿が消えていく。
その最中
「絶対、テメェをぶち殺して俺たちの実験材料にしてやるからな!」
と二人を睨みながら言い放ち、その場から完全に消えてしまうのであった。
「逃がして……よかった、の?」
「まぁ、別に殺す必要はないし、シリウスちゃんも別に殺したいわけじゃないよね?シリウスちゃんの目的は師匠であるアイギパーンって人と合流して、メイガス・ユニオンから逃げる事。そこを忘れちゃいけないよ」
確かに彼女の言う通りだ。ここであのエルフの少年を殺す理由はない。それに、殺してしまえばメイガス・ユニオンに命を狙われていたかもしれない。明確な敵意を持っている危険因子だ、すぐに始末してしまおう、と。
「あなたの…言う……通り」
「でしょう?んじゃ、もう動きますか。ここに居たことはとっくにバレてるし、退いてくれたとはいえ私たちを逃すわけでもないでしょう。きっとすぐに援軍を連れてか、それとも別の誰かを送ってくるか。そこらへんは知らんけど、すぐに誰かを送ってくるはずさ」
アニほどの実力者なら誰が来ても蹴散らす自信はある。しかし、それじゃあ暇つぶし、遊びにならない。
「ここから先はかくれんぼ。すぐに去って消息を絶って身を隠す。鬼のメイガス・ユニオンを翻弄して、さっさとこの国から出る。無駄な戦闘はこちらを不利にする。でしょ?」
シリウスはアニの言葉、一言一句を否定することなく、何度も軽く頷いて彼女に同意する。
「それじゃ、さっそく逃げましょ。かつアイギパーンに関する情報も集めなきゃ。どうするかはまだハッキリ決めてないけど、こういう時は案外、大きく動いている方がバレない事が多いんだよね。冒険者ギルドにでも行こっか」
「おっけー」
そうして二人がその場から立ち去っていく。




