ダイモン 11
アニはシリウスを守るかのように彼女の前に立ち、エルフの少年と対峙する。
「いやぁ、暇つぶしとは言え助けるって言っちゃったからなぁ。それに案外、君は強そうだしさ。私の遊び相手になってよ」
エルフの少年は「ちッ、簡単な任務だったんだがな──」と舌打ちしながら呟く。
「テメェ、名前は?」
「私の事が気になるのかしら?良いわよ、ソッチの相手をしてあげても」
「馬鹿か、お前は。んなわけ無ェだろうが」
今回のアイギパーン始末の任務は秘密裏に行われている事。さらに言えば、自分は仮想敵国である仙国に潜入している状態。仙国の仮想敵国であるセレシアの、しかもメイガス・ユニオンに所属している自分が仙国内で殺人を起こせばどうなるか……。
姿からしてシリウスからアニと呼ばれていたこの女はメイガス・ユニオンの問題に首を突っ込もうとしている。まだここから去るのであれば見逃すが……そのつもりは無いらしい。であれば、もう殺すしかない。
アニが何者かは知らないが、魔術師という見た目からして冒険者の可能性が高い。冒険者は旅をしている者も多い。だが、仙国民の可能性も捨てきれない以上、殺した後はアニの周辺、友人、家族関係を調べて場合によって情報操作する必要がある。
「ほら、さっさと言え」
「えぇ!?仕方ないなぁ、私の名前はアニマ・ムンディ。アニって呼んでくれて構わないよ♡」
「ふざけた奴だぜ、ったく。本名か、それ?まぁ、別にどうでも良いか。工作活動なんて時間も費用もかかるから、ダルくて嫌なんだがなァ!!」
エルフの少年はだるそうな表情から一転、瞬時に魔力を体に纏わせ、殺気を放ちながらアニとの距離を詰める。魔力による身体能力向上によってその速度は凄まじいモノであり、気づけばもうアニの目の前へと来ていた。
エルフの少年は足に魔力を集め、鋭く強い蹴りをアニに向けて問答無用で入れる。が──
「暴力的な男はモテないぜ」
アニは片手でその蹴りを受け止めていた。
そこに今度はダンッ!ダンダンッ!と三回、火薬の爆発する音は響くと同時にエルフの少年に魔力の込められた弾丸が襲いかかる。すぐさま足を引き、バックステップで弾丸を避けながら自分で詰めた距離を取り始める。
しかし、完璧に避けていたと思えたが、少しかすってしまったようだ。少年の頬に一本の線が引かれ、そこからツー、と血が流れ始める。
「私も…戦える、んだから……」
シリウスは銃を振り、シリンダーを開けると放った分の弾丸をリロードし始める。
「ちぃッ、ロクに魔術も使えない落ちこぼれの雑魚がッ──!」
手の甲で頬の血を拭き取る。しかし、かすった程度の浅いこの傷もまだ塞がっていないようだ。煩わしいように再び血が流れ出す。それに怒りを覚え、少年はまた舌打ちを繰り返す。
「ちッ、くそが。俺はアイギパーンさえ始末出来れば良いって言うのに……どうしてこんなめんどくせェことになるんだろォなァ!」
ものすごい怒気を込めながら体内の魔力を一気に放出させ、両手拳に魔力を集める。そして、その魔力は形を作り始め、最終的に一本の杖を具現化させる。
それは剣のように両刃があるのだが、それはあくまでデザインのようだ。刃の部分が短く、持ち手の方が圧倒的に長い。更に持ち手から茨のようなツタが伸び、刃にまとわりついる。そしてツタのあちこちから金色の薔薇が咲いている。
杖を持ったことで更に少年の魔力は多くなり、さらに彼の持つ何かしらの能力か。地面に落ちる影がグググ、とまるで生きているかのように伸び始める。
「テメェら、ぶっ殺してやる!」
そうして少年とアニ達の戦いはさらに激しくなっていく。




