ダイモン 10
場面は再び戻り、そこはコーゲンミョウラクの郊外。アニによって命を救われたシリウスは自分がどうして命を狙われているのかを説明した。
「──にゃるほど、にゃるほど。それでシリウスちゃんは命を狙われていると。さっきの魔獣化していた猫もメイガス・ユニオンの使役している魔獣だったってことか」
「そう…いうこと。師匠とも……離れ離、れになっちゃって…………。だから合流したいん、だけど」
「オッケー、状況は理解した!せっかくだし、その師匠というのは見つけてあげるよ」
「本当!?だったら、とても……嬉しいんだけど。どう…して、そこまでして……くれるの?」
そこまでシリウスを助ける事にアニはメリット無いはずだ。もちろん世の中には益、無益関係なしに動いてくれる者だっている。ボランティア、という言葉だってこの世界にはある。しかし、シリウスの抱えている問題は大きいモノだ。
メイガス・ユニオンという大きな組織から命を狙われている。奴らから逃れる術は無く、冒険者ギルド連合に助けを求める事も出来ない。そして、誰も厄介ごとに巻き込まれるのは望んでいない。ゆえに何処かの国、組織に保護して貰うことも難しいだろう。
戦神アナトのような──神々に匹敵する領域に達した存在でない限り、この件を解決出来ないはず。
その厄介ごとに無益で、善意のみで首を突っ込もうとする……そこに疑問を持たないわけがない。
「うーん、そうだねぇ……特に理由はないかな?」
「……はぁ?」
理由が……無い?
理由も無いのに厄介ごとに首を突っ込む?
もっと理解が出来ない。
「強いて言うなら──」
アニは更に言葉を続ける。次に出た発言で、シリウスはより彼女の事が分からなくなる。
いいや、シリウスは彼女の瞳を……その奥にあるナニカを除いてしまう。
「暇つぶしかな」
彼女の天真爛漫のような、曇りのない笑顔。しかし、その五芒星が描かれた瞳の奥底では多くのナニカが渦巻いている。それは数多の魂、あるいは心、あるいは精神、あるいは──
彼女は──アニは人ではない。
彼女そのものが、一つの世界に匹敵するナニカであるとシリウスは悟ってしまったのだ。
「さぁて、話している間に次が来たみたいだけど」
そうして、アニはシリウスから意識を逸らし、別の方向を見る。シリウスも遅れてアニの見ている場所を確認する。そこには一人の少年が立っていた。耳が尖っているその特徴からしてエルフのようだ。
この状況で現れるとなれば、何者かなど簡単に察せられる。
「よォ、見つけたぜ。お前がアイギパーンの弟子、シリウスだな?ちッ、あちこち逃げ回りやがって。探すのに苦労したぜ。しかし……テメェは何者だ?何処から来た?任務書にはお前の事は書かれてないし、部外者ならさっさと帰りな」
無関係の人間を巻き込ませるのはこちらも望んでいない。エルフの少年はめんどくさそうな表情でアニを睨み、彼女を立ち去らせようとする。




