刃の厄災 15
二人からの猛烈な斬撃を喰らい続け、反撃の余地もなく、身を守ろうにも二人の攻撃はあっさり体に纏った魔力の膜を破壊し、鎧を斬って肉体にダメージを与えていた。
前にも述べたように、刃の厄災は回復系の魔術が使えない。しかし、そのぶん、自然で生まれた生命を遥かに超える治癒能力を持っている。しかし、その治癒さえも追いつかない。
防御系の魔術は使える。だが、発動させる間もない。
「このまま押し切れば、行けるぞ!」
トーゼツは、勝利への道がようやく見えたことでその動きがより速く、力強いものへと成っていく。。
ミトラもまた、その腕を休ませることなく、魔力も絶えず消費させながらも、トーゼツのその言葉に同意するように、笑って同意の反応を示すのであった。
そんな中、アナーヒターだけが違和感のような…嫌な気配……なんと呼べば良いだろうか。虫の知らせ、第六感……なんとも説明できないような不安が背中から這い上ってきていた。
(なんだ、この感覚は……)
彼女は空中に浮かんでいる数十個の魔法陣を見て、発動させている魔術を確認する。
(回復系の魔術、二つに腕力増強、脚力増強……あとは痛覚遮断に、視覚強化。魔力量も、運用している魔術も問題はない。でも、嫌な予感がするな)
そうしてアナーヒターはあらかじめ、防御系の魔法陣を展開させ、いつ、何が来ても良いように魔力を流し込んで発動の準備をしておくのであった。
そして、その勘は運が悪くも当たってしまう。
(……なん、だ?)
トーゼツも、アナーヒターの感じていた予感を察知する。だが、その時にはもう遅かった。
みし、みしみし、と軋む音が響く。
それは、厄災の着ている鎧からであった。
(鎧が、小さく?いいや、違う!コイツ、縮んでいる!?)
少しずつ、少しずつだが縮んでいる。それはまるで、よく伸び縮み、弾むゴムを圧縮しているかのように……。であれば、きっと—
「まずい!ミトラ、逃げろ!!」
トーゼツは急いで双剣を捨て、ミトラにタックルするように走っていく。
「ッ!?」
ミトラは何がなんだか、わからなかった。が、次の瞬間には、刃の厄災の体は急激に膨らみ、爆弾でも爆発でもしたかのような衝撃を発生させる。
それだけではない。身を守るために纏わせていた魔力も同時に放出させ、まさに爆炎にでも巻き込まれたかのような感覚に二人は陥る。
「くッ!」
その魔力はまるで斬撃のように四方八方に飛び、ありとあらゆる物を斬り刻んでいく。
ミトラはその衝撃を真正面から受け、視界は暗転し、身体中に恐ろしいほどの痛みが襲ってくる。
その数秒後……。
「……うぅ」
痛みで唸りながら立ち上がってくるのはミトラであった。
その姿は血まみれで、体中に出来た全ての斬り傷からはさっくりと肉の断面が垣間見えていた。




