ダイモン 4
魔術師の女が握り潰したことでびちゃびちゃ、と魔獣化した猫の内臓や血が周囲に散っていく。路地裏の壁や地面、女の服にもそれらは付着する。
それはとても気分の良いモノではなく、すぐさま鉄の嫌な匂いも漂い始める。
それは現実。今、目の前で起こった事象だ。しかし──
「えっ……?」
エルフの少女の視覚、嗅覚から気分の悪かったモノらがいつのまにか消滅していた。それは内臓や血が飛び散ったのが嘘だったかのように。
「思わず握り潰しちゃったけど、こうすれば問題ないよね?」
そう言って、もう一匹に猫の方へと魔術師の姿をした女は意識を向ける。
先ほどまで獲物を狩る、狩人であった魔獣化した猫が今では立場が逆転してしまった。自分が必死に逃げなければならない獲物となってしまった。
そんなのは猫であっても理解できることであった。しかし、この魔術師の姿をした女を殺さなければ、と魔獣化した弊害で戦闘本能の方が優先されてしまう。しまったのだ。
その後の結果は言わなくても分かるだろう。
爪を構えて飛び込んだ猫は同じく、ぐしゃりと潰される。だがそれはさっきの手で握り潰す……というわけではない。それは触れてすらいなかった。飛んで空中を待っているその瞬間、まるで紙をぐしゃぐしゃに丸め込むように、巨大な重力圏であるブラックホールに吸い込まれていくかのように、空間ごとその猫は潰されたのだ。
そしてどんどん小さく丸め込まれ、最終的に影も形もなくなってしまう。
「こんな感じで良いか。っとさて、そこの可愛いエルフのお嬢ちゃん。どうしてこんな所に魔獣がいるのか、君は何者なのか。少し聞かせてもらおうか」
その魔術師の姿をした女はエルフの少女へと近づき、そのように述べる。
助けてくれた事にはとても感謝はしている。が、だからと言って急に現れた彼女をすんなり信用するほど馬鹿ではない。エルフの少女はその女に対し、とても警戒していた。
「そんなに硬くならないで、私は敵じゃないから。あっ、私の名前はアニマ・ムンディ。アニって気軽に呼んでくれると良いよ!」
アニは手を差し伸ばす。自己紹介をされ、少し悩みながらもエルフの少女も手を出して握手を交わしながら口を開く。
「私は、シリウス……よろ、しく」
「良い名前だね、よろしく!とりあえず、ここじゃなんだからもっと落ち着いた場所で話を聞かせてもらおうかな!」
アニは、何もすることもないし、お金もない。トーゼツたちは冒険者に聞き込み中で、ひっついても楽しいことは無さそうだった。どうしようかな?なんて思っているところにようやく暇つぶしの材料が見つかった。なんて自分は運が良いんだろう!なんて思いながら嬉しそうな表情でアニはめんどくさそうな話へと首を突っ込んでいくのであった。




