ダイモン
次の日、アニは一人で仙国の首都、コーゲンミョウラクを一人で歩いていた。
「仕方ない事とはいえ、一人なのは寂しいなぁ……!」
なんて言っているが、その足取りは軽く、まるでスキップしているようだ。また、彼女から気持ちの良い綺麗な鼻歌が響いている。だが、それは楽しそうと言うよりも、何も考えていない能天気な感じであった。
今、トーゼツとアナーヒターは冒険者ギルドで情報収集を行なっており、ミトラはまだベッドでお休み中。アニは勝手にトーゼツ達についてきただけ。別に目的があるわけでもなく、やる事があるわけでもない。情報収集に付き合うのもめんどくさいと思い、一人で旅行感覚で街中を歩いているのであった。
「しっかし、人は多いわねェ。神都に負けないレベルの賑やかさだね」
最も人口の多い国であると聞いてはいたが、ここまでとは思っていなかった。大きな通りでは馬車がひっきりなしに通っており、歩道の方では肩をぶつけ合う姿もしばしば見られた。アニは一度、周囲の邪魔にならないように道の端に移動し、すれ違う人たちの表情を観察する。同時にいろんな会話も聞こえて来る。
仕事の話、身内の話、人間関係の話……。
これまた多種多様な表情と会話が流れて来る。だが、それらには共通のモノがあった。それは全て幸せそうであるということだ。
現在、この世界では一年ほど前から休止状態だった厄災の活動周期が訪れ動き出し、あちこちで災害が起こっている。また、神都崩壊した話も今では世界中に知れ渡っており、不安に溢れている。軍事的にも経済的にも不安定になっている。人間社会では全員が生きにくい社会になりつつあると思う。
なのに、目の前にいる人たちはそんな不安など無さそうだ。それは天玉仙帝という大きな存在がいるからなのか。それとも、国民全員が教育を受けていない馬鹿なのか。もしくは──
「まっ、そんなの私はどうでも良いか」
アニは思考を放棄する。こんな自分に関係ない事を真面目に考え出す方が馬鹿らしくなる。自分が楽しいと感じることだけをやって、考えて、生きる、それが私だ。
「はぁ、それにしても良い匂いがあちこちから漂って来る。今は昼時かな?」
食事を要らない体ではある。だが、舌は持っているし、味覚もちゃんとある。美味しい物を食べることが趣味になるぐらい、食事というのは楽しいものだ。アニも定期的に食事をとっているが、それは健康のためだとか生きるだめではなく楽しむために食べている。
だが、現在、彼女はお金を持っていない。
「今すぐに宝石とか金でも銀でも売って金を手に入れたいんだけどな。ネイコスに止められてるし、テンギョクとかもブチギレてきそうだし、諦めるか。ちぇっ」
この世界の経済なんてどうでも良い事なんだが、テンギョクやネイコスと言った他の外界の者と戦いたいわけではない。
彼女は食欲を抑えながら街をただ歩き回るのであった。




