仙国 10
この世界の構造をある程度知っているからこそ、アニは最初はなんとも思っていなかった。
この世にはあらゆるエネルギーが流れている。自然の中で言えば、火山や地震と言った地脈エネルギー。太陽から降り注ぐ光や熱のエネルギー。雲の氷や水、埃が擦れることで放たれる雷と言った電気エネルギー。質量を持つモノから生まれる万有引力。
そして、現代の魔術学では解明しきれていないモノで言えば、大地を駆け抜け、星を巡り、星へと還る龍脈。人、獣、神のみならず世界の魂の通り道とされているアツィルート……。
世界の外からやってきたアニだからこそ、周囲に満ちるエネルギーの変化には人一倍感じられやすく、またそれが何なのか、理解しているつもりだった。今回感じているこの力も、きっと仙国に流れている龍脈の一種だろう、そう思っていた……。
だが、それは違った。
この国を覆うそのエネルギー、つまり『気配』は、テンギョク一人から放たれているモノであった。それは魔力ではない、厄災のような狂気ではない、神々の操る神力ではない、別のナニカ。
「うーん、お前の感じているその『気配』っていうのが何なのかは知らんが──」
あまりアニに対して良い印象を持っていない、というよりハッキリ悪印象を抱いているトーゼツはあまり質問に答えたくないのだが……珍しく彼女の顔は真剣で、何かそこに大きな問題があると思ったトーゼツはその質問に答えようとする。が、トーゼツはあくまでこの世界の住人であり、決して常識外の存在ではない。だからこそ、アニの感じてるこの『気配』の正体はこれだ!と説明できるわけではない。
それでも──
「心当たりならある、でもアナーヒターの方が詳しく説明出来るんじゃないかな?」
「そうね、私も全部は分からないけど……そうだな。アニは仙国について何処まで知ってる?」
「初めて来たし、今まで興味なかったからなぁ」
これまでは冒険者連合に首突っ込んで、調和神アフラにも多くの迷惑をかけて、トーゼツ達も振り回してきた厄介人であった。ネイコス達のように目的があってこの世界に来たわけでもないため、あらゆる場所へ行ったり来たりしているわけでもなし。ゆえに彼女の活動範囲は神都周辺に留まっていた。
「んじゃあ、この国の人間が全員不老不死であるというのはご存じ?」
……なんだと?
あらゆる世界を見て回って来たアニでさえも、自分の耳を疑った。
不老不死……?仙国の民全員が……?
「嘘でしょ?」
「アナーヒターの言っている事は本当だ。数百年間、仙国で寿命を迎えて死んだ者はいない。と言っても事故、災害による死者はいるけどな」
また、不老不死が完璧なモノになったのはつい最近の話。それまでは病気や肉体の崩壊が起こっていたらしい。しかし、この最近と言うのは約五百年昔の話で、数千年という長い歴史を持った仙国においてはつい最近、というわけなのだが。




