仙国 9
転移術は初めてだったのか。これまでテンギョクの行動に一切驚きのなかったトーゼツも、これには「うぉ、まじか!?」と反応している。アナーヒターも「どういう仕組みの術なんだ?」と呟いている。
しかし、まだまだ続くはずだった長い歩き旅が今日で終わることを考えると、とても喜ぶべき事ではある。まぁ、帰りはきっとテンギョクの力を借りることはなく、歩くことになるとは思うのだが……。
周囲には霊霄殿を警備していたと思われる兵士が多くおり、彼らは突如として現れたテンギョクに敬礼をする。
「「「おかえりなさいませ、天玉仙帝様!」」」
練習を何度も重ねたかのような、意気のあった挨拶。きっと普段からやっているのだろう。
「そちらの方々は客人でしょうか?」
兵士の中でもきっと位が高い者なのだろう。代表してテンギョクの前へと現れ、尋ねる。
「客人ではあるが、彼らはすぐに去るゆえに客間へと通す必要はない」
「かしこまりました!」
そう言って代表の兵士は下がっていく。
「我はやるべき事が出来たゆえにここで失礼する。何かあれば連絡を寄越すと良い。それではまた──」
そう言ってテンギョクは兵士を数人連れて霊霄殿へと入っていく。
その後、トーゼツ達はコーゲンミョウラクにある宿屋で部屋を借りてそこで今日一日休むことにした。そして今、ここから先はどのように動くのか話し合うためにアニとアナーヒターの二人はトーゼツの部屋に集合していた。ここにいないミトラは思っていた以上に疲労が溜まっていたようだ。晩御飯を食べることなく、まるで泥のようにベッドで眠っていた。
「疲れている奴を無理やり起こす必要はないし、ミトラ抜きで話すとするか。と言っても、ぶっちゃけやることは大体決まってるんだけどな」
とトーゼツが話を進めようとしたその時
「ちょっと待って欲しい」
アニがトーゼツの言葉を遮る。
「あのテンギョクとかいう男、アレは何者なのかしら?」
ずっと彼女はアカシックレコードに検索をかけていた。しかし、やはりテンギョクの情報は出てこなかった。それ以外にも、仙国に関する情報もそうだ。どのように建国され、どう言った歴史を辿り、今に至るのか。一部の情報がまるで規制されているように確認できなかった。
やはり、テンギョクはいざとなったらアニを滅ぼせる存在の可能性が高く、危険な人物のようだ。であればこそ、情報収集は大切だ。しかし、アカシックレコードは頼りにならない。
となれば、情報収集の方法は古典的なモノに限られて来る。書物を読む、人に聞くなどだ。
どうやらテンギョクに対してトーゼツ達は顔見知りのようだし、色々と知ってそうだ。ということでアニはトーゼツ達に訊くことにしたのだ。
それに、最も気になっているのは──
「この国に入ってから感じるこの気配……テンギョクを中心に発生しているけど、何なの?」
そう、この『気配』についてだ。




