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出会い 4

 トーゼツとメユーは一旦、ギルドから出ることにする。


 ギルドには今日も定期依頼を受ける予定だったが、この状況じゃあ依頼に対応できるほどの余裕がギルドの方には無くなっているだろう。ならば、ここにいる必要はない。逆にギルドスタッフに迷惑をかけないためにもその場から消えた方が良いだろう。


 (……そういうことか)


 災厄接近の話を聞いて昨日、商人を襲っていたあの魔獣の事が頭によぎるトーゼツ。


 前にも述べた通り、本来、あれほど大きい魔物があの場所に出現するというのは珍しく、これまでなかった事例だったが厄災の接近が確認されたとなると話が変わってくる。


 狂気を振りまく厄災。それに触れた生命はそのほとんどが狂気に飲まれ、理性を失い、本能も書き換わってしまう。魔獣もきっと厄災の狂気に触れてしまい、自分自身すらも忘却し、暴れていたのだろう。


 いや、もしかしたら魔獣でもなかったかもしれない。ただの獣が狂気に触れた結果、突然変異が起きてしまい魔力が使えるようになった可能性もある。


 これ以上、いろいろと考えていると止まらなくなってしまうが、とりあえず昨日の出来事は間接的に災厄が関係していたことであるということだ。


 「しかし厄災は今、全てが沈静化状態にあるって話だったが、動き出したっていうことは活動再開し始めたってことなのか?」


 トーゼツはラジオの放送を聞いていたであろうメユーにさらに尋ねる。


 厄災は現在進行形で活動状態にある。だが、奴らにも活動させるためのエネルギーが必要になる。体の中からまるで永久機関のように無限に魔力があふれ出るはずがない。もしそうであれば、そのメカニズムを人類が解析し、とっくの昔に活用開始されているはずだからだ。


 しかしながら、生き物のように何かを食してエネルギーを得ているわけではない。厄災は地熱や風、太陽光などからエネルギーを得ているのが現在では分かっている。そして、蓄えている間は一時的にではあるが活動が著しく低下し、沈静化状態になるというのも確認されている。


 そして、それらの周期は三百年単位で行われている。二百年間止まらず活動したのち、百年という長い年月、活動低下しエネルギー貯蓄が開始されるという。


 そして、次の活動時期はまだ数十年先の話だったのをトーゼツは聞いていた。


 なので、ここに来て厄災活動活発化には耳を疑ったものだ。


 「さぁね。私も専門家じゃないから知らないわよ。でも、確かにこの国を横断する形で動いているのが確かなようね。今、セイヘンだけじゃない。世界中の国々がなぜ数十年早めて活動再開を始めたのか、調べているみたいだけど」


 「そうか、ラジオ報道でもその程度の情報か。しかし、国はどう対応するつもりなんだろうな?近辺諸国にだって緊張が高まっていてもおかしくはないと思うが」


 暴れるだけ暴れて立ち去る災厄に対応するのは難しいが、殺せないわけがない。じゃなければ、たった六体、しかしながら確実に厄災討伐を成功させていることに人類が成功できるはずがない。だが、軍勢でかかれる相手じゃない。なにせ、狂気に触れれば一瞬で廃人になるのだから。


 大砲などの遠距離攻撃も難しい。厄災も抵抗してくるのだから。


 ではどうしてきたのか?


 単純だ。狂気に飲まれないほどの強い心を持った冒険者や兵士によって討伐されてきたということだ。無論、心が強いだけではダメだ。厄災と互角、もしくはそれ以上の戦闘力を持っていなければならない。


 最も最初に厄災を討伐した者は神と人間のハーフであったらしい。これはもう神話レベルの遠い昔で真偽不明なため、どうなのかは分からない。だが、二つ目以降からはしっかり歴史に残っている。


 二体目、三体目は同じ者が討伐したらしく、単独討伐であったらしい。そして、四体目は一組のパーティチームで相打ちで終わったと聞く。


 そして、五体目は三年前と近年の話で、最後の六体目に関してはつい半年前の話だ。これまた同じ者、単独での撃破ということだ。それにより、世界中では厄災を半分以上削ることが出来るのではないか?とかなり盛り上がっている。


 もちろん、五体目、六体目討伐者はご存命どころか、半年前の戦いの休養が終わり次第七体目討伐に向けて訓練していくということだ。そして、その圧倒的な強さからその厄災討伐者は『神代の終末者』や『神々に愛されし者』なんて言われていたりする。


 「うーん、とりあえず対抗するという話は聞いたけど数で対応できるような相手じゃないし、かと言って彼女は休養中だし、セイヘンに厄災に立ち向かえる戦士やパーティがいるのか?と言われたら、いないような気もするし……」


 そのような話を聞いてトーゼツはしばらく考え、数秒後、突如としてとんでもないことを発言する、


 「……よし、決めた!!」


 「おぉ、急に大声でどうした?」


 「俺たちで厄災を討伐しよう!!!」


 その言葉を聞いて、メユーは口を開けたまま茫然としていた。そして、時間をかけてようやくトーゼツの言葉を理解したのか、声を荒げる。


 「はぁ!?な、なにを言っているの?さすがに私たちじゃあ無理よ!」


 「いいや、いけるね!俺が冒険者になったのは、多くの人を助けるためだ!そして、今がその時だって、運命が俺に告げているんだよ!」


 トーゼツは目を輝かせる。


 「じゃなきゃ、このタイミングで、数十年早めに活動再開して厄災が俺たちのいる国に向かってきたってことに理由がつかないだろ?」


 「いやいや、そんな理由で厄災が動き始めたわけじゃないと思うんだけどね……」


 まぁ、トーゼツの無茶振りというか、こんな状態、初めてでは無い。


 「こうなったらどんだけ止めても無駄なのは私自身が知っているし……良いよ、死ぬかもしれないけど付き合うよ」


 メユーの表情は不可能に近い困難に立ち向かわなければいけないということでかなり不安な表情になっているが、それと同時に何処か楽しそうな雰囲気でもあった。不可能を可能にする。そんな夢物語のような言葉で誰にもはできない。それでも、魅力的なものを見ているような目をしていた。


 「おお、さすが五年以上、付き合ってくれている相棒だな!……ありがとうな」


 トーゼツだってそれが自分が勝手に言い始めた、突然のわがままだってわかっている。他の冒険者や兵士が聞けば笑われるだろう。だが、その本気さに気づいた上ですぐに説得を諦めて、さらには不安な気持ちを困難へと挑戦する意識へと素早く切り替えたメユーに感謝をする。


 「良いのよ、でも厄災討伐に向けるのなら、やっておかないといけないことを決めなくちゃね」


 「そうだな、まずは三つ。情報収集、計画立案、そして訓練だな。まず、相手にしないといけない厄災が何なのか。そして、何処から向かってきているのか、の情報収集。そして、その情報を元に、何処を戦場にするのか。どのような攻撃なら通用するのか作戦立案。そして、計画実行して勝てるように訓練、という感じかな」


 「そうね、じゃあ情報収集は私の役目かな。アンタより、私の方が色々と上手くやれるからね」


 トーゼツと一緒に戦ったことのある者は、トーゼツにはしっかり信頼できる実力があるのを知っているが、ほとんどの冒険者は職無しのニートと馬鹿にしており、あまり信頼されていない。それは、国軍、つまり兵士からも同じように思われており、厄災について教えてもらおうと思っても馬鹿にされて追い返されるだけだ。


 それに対して、メユーには確実に情報収集できる術を持っている。


 「そうだな、じゃあ、情報収集は任せた!」


 「了解!」


 そうして、二人の厄災討伐に向けた準備が始まった。

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