仙国 7
テンギョクは何かしら悟ったのか、あらゆる思考しているアニに意識を向ける。
「キサマは世界の外から飛来してきた者たちか……」
その眼は格下を見るような憐れみの眼があり、敵とみなす怒りのような感情が渦巻き、同情の余地もない冷酷な表情であった。
「我にお前たちを裁く権利はない。だが、我はお前たちがこの世界に干渉するのは許さない」
その言葉に嘘、偽りはなく、またテンギョクの言葉には自分であればお前をいつでも殺すことが出来るんだぞという意味が含まれているようでもあった。
「それはどうかな?」
アニはニタリ、と余裕の表情で笑う。いつも通りの彼女。ふざけているようで、自分の事しか考えていないような雰囲気を纏っている。が、表情を含め、それらは何処か本心を隠しているかのような作られた笑顔でもあった。
しかし、彼女を見るテンギョクの表情は変わらない。
「ふむ、強がりだな。まぁ、我も無駄な争いを好まない。この世界を荒らすようなマネをしなければキサマを殺すことはない。安心したまえ。それよりも──」
テンギョクはアニへの興味が失せたようで、再び意識がトーゼツへと向けられる。
「返答はどうかな?トーゼツ・サンキライ殿」
彼はこの場は非公式と言っていた。だからと言って、テンギョクが上司であり、この国の王という役職が消え去ったわけではない。しかし、さすがはトーゼツというべきか。恐怖することもなければ、迷うことなく真っすぐに返答する。
「無理だよ、テンギョク」
それは否定であった。
「俺が冒険者なのは、世界中を旅しながら多くの人たちを助けたいからだ。アンタの部下になれば仙国の人たちは救えるかもしれない。でも、俺はこの国だけを救いたいんじゃない。世界を救いたいんだ。夢のために進み続けるためにアンタの部下になるわけにはいかない」
テンギョクもまたこの返答を理解していたのか。動じることはなく、しかしこの分かっていた答えにとてもがっかりした様子であった。
「やはりダメか……冒険者連合の状況を考えれば我の部下になる方がメリットがあると思うのだが──貴殿はそういう理屈で動く男じゃないというのは知っているつもりだ」
テンギョクの性格を知っているミトラは、こんな簡単に食い下がらないのかと彼らしくない行動がずっと続き、何が起こっているのかサッパリ理解出来ない状態であった。
「仙帝様の誘いを何度も拒否するとは、お前も愚かだな。まっ、確かにお前が同僚になられても嬉しくはないし、そのまま一般人のままでいろ」
ワンウーはテンギョクとは反対の様子で、誘いを拒否したことにとても嬉しそうであり、これほどの好機を逃すとは馬鹿な奴だなと嘲笑っているようであった。
「君たちも、我が配下になりたくはないか?」
テンギョクはトーゼツのついでにと言わんばかりにアナーヒターとミトラの二人に声をかける。しかし、二人も「結構です」「私はトーゼツについていきたいからなぁ」と言って誘いを断る。




