仙国 6
テンギョクが『改まった態度を取らなくて良い』と言ったのだから、トーゼツ達の態度に問題はない。しかし、テンギョクの隣にいる男の表情が少しばかり怪訝なモノになる。
「仙帝様の許可があるとはいえ、そのような態度は何事か。もう少し自分たちの立場を考えた身の振り方を学んだ方が良いのではないのかな?」
そのように少しイラつきの色がある声であった。それに対し──
「我が良いと言っているのだ、無駄な言葉を挟むな」
テンギョクはその男の怒りを諌め、「はっ、失礼しました!」と深々と頭を下げ誤る男であった。
「アンタも変わらないな、ワンウー」
テンギョクに向けて頭を下げていた男はトーゼツを見る。
「ふん、貴様もな。トーゼツ・サンキライ。見ない間、かなり努力はしたようだな。神々から見放された貴様でも、多少が強くなったのが分かる。それでもまだまだ、だがな」
ワンウーと呼ばれたその男は、まるでトーゼツの事を気に食わないようだ。しかし、それと同時にお互いを認めているような、ライバルとして見ているような雰囲気でもあった。
そのようにトーゼツとワンウーが話している間にアナーヒターはテンギョクとの話を進める。
「アナタがお忍びで出迎えに来るのはよくある話だけど、ここまで来るのは珍しいね」
「確かに、普段であれば首都であるコーゲンミョウラクで出迎えするのだが、今は違うからな」
そう言って、テンギョクはライセイを退けるとトーゼツの前に現れると、冒険者であるトーゼツの上司であり、この国の王とは思えない態度を取り始める。
片膝をつき、頭を下げ、テンギョクは願いを乞う。
「私の部下にならないか?」
その言動にミトラとアニが疑う。しかし、アナーヒターとトーゼツは過去にも同じような提案をされたのか、二人のように驚くことはなかった。
もしも、テンギョクがアナトに対してこのような行動を取れば不思議がる者はいないだろう。冒険者最強で神代の終末者。戦神とも呼ばれる彼女は、どの組織、どの国であっても喉から手が出るほどには欲しい人材だ。しかし、テンギョクはトーゼツが欲しいと言っているのだ。姉とは違い、才能が無く、神々から職という祝福を受けれなかったあのトーゼツを、だ
ミトラはどうして、なんで、と疑問に思うしかなかったが、この世界の深淵に触れているアニだからこそ、テンギョクに対して強い警戒心が生まれる。
(まさかこの男、トーゼツの正体を理解しているの?アカシックレコードに検索をかけてるけど……全然見つからない。もしかして、世界の記憶にも既にふれているということ?)
分からない。
あらゆる情報が皆無だ。
このテンギョクという男──外界の者よりも厄介な存在かもしれない。アニは数十年ぶりに感じる嫌な気配に変な汗が流れ始める。それでも、まだ可能性だ。本当にテンギョクが自分と対等に戦える相手と決まったわけでもない。




