仙国 2
どうやらトーゼツ達は仙国には徒歩で来たようだ。
仙国の首都にあるギルドには本部と簡単に往来できる転移魔術が設置されている。そのため、本来であればその転移魔術を利用すれば徒歩で来る必要はない。
しかし、全国のギルドに設置されているこれらの転移魔術は全て調和神アフラによって展開されていた。しかし、調和神アフラが死んだため、徒歩で仙国まで来たのだ。
「はぁ……、あと三日はここを歩かないと仙国の首都であるカキンには着かないのか」
疲れた脚を動かしながらトーゼツはつぶやく。
砂漠越えに二週間もかかってしまった。一度何処かで宿で休みたいのだが、田んぼしかないこの場所ではまだ野宿しないといけないというのはかなりキツイ。農民の家などはあるのだろうが──
「まぁ、私たちはまだこういう旅には慣れているでしょ?問題は──」
アナーヒターは後ろを確認する。
そこには疲労が溜まった表情のミトラがいた。
彼女は仙国には何度か赴いたことはあるのだが、トーゼツとアナーヒターとは違い、冒険者の任務として、先ほども述べたギルドの転移魔術を使って来たということであり、決して歩いて来たことがあるというわけではない。
しかも、旅の道中では獣や魔物に襲われることもしばしばある。それらと撃退しながら向かうというのもかなりの労力がいることだ。
「心配、しなくても……大丈夫だよ」
そのように笑顔を作りながら言うミトラの顔はやはり隠し切れないほどの疲労が溜まっており、声にもハリがない。ちゃんと毎日、野宿とはいえ休んでいるし、たびたび休憩は入れている。もちろん、朝、昼、晩の食事も摂っている。とはいえ、旅に慣れていない者が急に砂漠越えをするとなれば、休憩を取ってもキツイのは当たり前だ。
「回復魔術でもかけてやるか?」
「いやいや、そこまでじゃないでしょ」
とミトラに対する話をしている二人に割ってくる者がいた。
「全く、私の力を使っても良いんだよ!私の力を使えば仙国の首都まで一気だからね!!」
そういうのは外界の者であり、二人が最も近寄りたくない相手──アニマ・ムンディであった。
しかし、やはり彼女はこの世界の人間ではないようだ。ここまで来るのに一切の食事をしなかったうえ、襲い掛かって来た獣や魔物に対し、触れることもなく、魔力を使うこともなく……また固有技能でもないナニカで捻り潰していたからだ。
「おいおい、アンタらは私たちに介入しないんだろ?だったらあの屋敷に帰ったらどうだ?」
アナーヒターは話しかけられるのも嫌なようで、複雑な表情だ。アナトレベルの味方としてみればこんなに頼りになる存在はいない。しかし、何があったか知らないが彼女によって過去、何度も厄介事に巻き込まれてきた事を考えると、近づきたくもない相手だ。




