外界の者 17
トーゼツはネイコスのその言葉を聞いて安堵し、ソファーの背もたれに自身の背中を預ける。
「それじゃ、一応、冒険者ギルドとの協力関係は結べたと思って良いのかな?」
ミトラはそのように尋ねる。ネイコスは「そう捉えてくれて構わない」と軽く返事をする。
これで当初の目的である必ず我々の仲間になってくれる者──ネイコス達との合流に成功し、こうして協力関係を取り結ぶことが出来た。つまり任務が終わったということだ。
「これで一仕事終わったな。あぁ、戦ったわけじゃないのに変に疲れたな、お茶をお代わりしても?」
「えぇ、良いわよ」
アニはティーポットを持ち、トーゼツのカップへとお茶を注いでいく。
ミトラも、二人がヤバい奴らとか言ってたため少しばかり恐怖や不安などがあったのだが、構えていたほど危険な状況になることもなかった。そのため彼女もまた安堵した表情へと変化し、少しばかり体がリラックスした状態になる。
任務は無事に終わった、もう帰還しても良いのだが、ここは山岳地帯であるスールヤット。長い坂道を登ってここまで来たのだ。もうしばらく休んで、それからケルテン湖の仮拠点へと戻るとするか、なんてトーゼツ達は考えていたのだが──
「ゆっくりしようという気持ちは分かるのだが、状況はそうではない」
ネイコスは変わらず真面目な表情で話を続ける。
「黒いローブの集団、彼らの計画は次の段階へと進んでいる。さっそくだけど耳寄りの情報を教えよう。彼らが次の標的としているのは仙国だ。今すぐに向かいたまえ。二ヶ月後にはそこも、地獄と呼ばれているかもしれないぞ?」
同時刻、会議が行われているスールヴァニアでは──
「ふぅ、なんとか会議が終わったな……」
城の休憩室でぐったりとなっているのはアナトであった。
列強諸国との会議は可もなく不可もない結果で終わった。冒険者ギルド連合との協定破棄などは無かったが、ダメージを負ったギルド連合に支援はなく、また大きく事態が動かないかぎりこれまでと変わらない関係でいるということになった。
もっと上手く説得、説明、丸め込むことが出来れば列強諸国から人的にも、金的にも支援を受けることが出来た可能性があったのだが──
「私はあまり舌戦は苦手なんだけどな」
「仕方ないだろ?神都崩壊時にいた上に冒険者ギルドの顔と言っても良いお前が会議で前に出ないと相手も納得しないだろ。それでも、まぁ、よく頑張ったよ。ホレ、甘いモノでも食え」
労いの言葉をかけながら赤くて美味しそうなりんごを投げ渡すのはテイワズであった。
アナトはそれをキャッチし、丸齧りする。口の中にりんごの果汁が入り、甘い香りと味が疲れた舌の上に広がっていく。
「あぁ、美味い!お前、毎日こんな美味しい物食って生活してんのか!?」
スールヴァニアは地理的環境によってりんごが育つような場所ではない。それでも魔術によって育成したり、海外からの輸入でりんごは食べられるのだが、これほど甘く、美味しい物となると入手は難しい。
「まぁな、俺はこの国の神で王だからな。それよりも、だ。お前が俺に個人的に依頼した任務、黒いローブの集団の目的、次の行動、そして──奴らの裏にいるのが何者なのか、調査報告書だ」
そう言ってテイワズはアナトに報告書を手渡す。




