刃の厄災 12
どんどん力を増していくのだが、一向に刃の厄災の手甲剣が前へ進んでいく感覚がない。それほどまでに、トーゼツの魔力と筋力を合わせたパワーが強いということでもある。
「まぁ、良い。ならば―」
何度も言っているが、刃の厄災の体はトーゼツの数倍もある。
彼は自分から見て小人のようであるトーゼツを剣に付きさしたまま、ぐぐぐ、と軽く持ち上げる。
「チぃッ!」
足をバタつかせ、必死に両手で抵抗する。まるで丸太の如き太い腕を強く両手の拳で殴っていく。しかし、鎧の上からの攻撃で、勢いもないそのパンチによってダメージが入ることはなかった。
そして、徐々に持ち上げていき、そこからドンッ!と強くトーゼツを地面に叩きつける。
「ッ!
背中に強い衝撃が走り、口を大きく開けるトーゼツ。しかし、これでも彼の力が緩まることはなく、それ以上、刃が突き進むことはなかった。
「ほう、これでも力が抜けないか」
彼は諦めたようで、ズズズ、と胸部から剣を抜く。
刃にはべったりと血がついており、抜き終わった瞬間、剣先からぬらり、とそれが垂れ下がっていく。トーゼツの周辺の地面が、真紅に染まっていく。
その瞬間だった。
「っらァ!!!!!!」
トーゼツは腕に力を入れる。そして、腹筋の力も利用して使って思いっきり跳ね起きる。しかし、飛び上がった足の向かう先は大地ではなく、目の前にいる刃の厄災であった。
そして、その蹴りは見事、。刃の厄災の腹へと当たる。
(傷を負った状態で、この蹴りの威力だと!?)
実際、トーゼツは負傷しているこの状態で……いいや、負傷していなかったとしてもこれほどの蹴りを繰り出すことは出来ないだろう。
では、どういうことなのか。
(アイツか!!)
刃の厄災の視界には、アナーヒターが映っていた。そして、彼女を中心に、いくつもの小さな魔法陣が浮かんでおり、それらは機械の歯車のようにカチカチと回り動いていた。
そう、これはトーゼツ単体の力ではない。アナーヒターの魔術によるバフがかかっていたのだ。さらに、本来ならば痛みで悶絶して動けなくなっていてもおかしくないこの状態で反撃できたことも、彼女のおかげであるのだ。
厄災にドン!と強い衝撃が走ると、そのまま五、六メートルほど飛び、空中を浮遊する感覚へと至る。そこから一秒も立たずに重力に捕まえられて自由落下が始まろうとする。
だが、その空中にいる、まさに自由に動けないその状態をチャンスだと理解しているトーゼツは、追撃しようとする。が、同時に接近は危険であるとも感じていた。
(奴の目線がさっき、俺じゃなくて武器にいっていたな。つまり、まず先に武器を壊してしまおうって考えになった可能性がある。だったら―)
指輪に魔力を込め、空間に穴を開ける。
(次元の穴!?あの指輪もアーティファクトか!!)
刃の厄災はより強く警戒する。一体、何が飛び出してくるのか。




